前号で「らしさ」シリーズの端緒を飾った「女らしさ」につづくのはやっぱり「男らしさ」だ。そこは読み通りだったが、予想通りの展開のあとの待っていたのは、ほんに今どきの「男らしさ」を問う素晴らしい提言としての一品だった。
そもそも男らしさの対義語は女々しいではないか、という提示は、ふむふむという感じで始まった。日本近代の男女観のモデルに選ばれたのは新渡戸稲造。男性は女性の保護者という感じ。それが現在平成令和にどう変わったかとして白羽の矢が当たったのは霊長類学者・人類学者の山極寿一さんだが、男は食物獲得に精出し、女性を守るという点で男らしさに変化は見られないという、ほんと今の日本の状況が浮き彫りに。しかし、そこで終わったら面白くも何ともない。著者の着眼が鋭い。題して「つわり」を覚える男たち。
妻の妊娠と同時に夫がつわり(悪阻)を体験する事例は、実は古く柳田国男の記録でも見られるもので、民俗学的には昔は十人に一人見られたとの記録もある。現代に於いて、イクメンが取り沙汰されるようになったが、つわりを覚える男達は今後「女らしい」男と言われるのか、「女々しい」男になるのか、それ以上に「男らしい」男と解釈されるのか、これは実に大きな転換期に差し掛かったとみてとれるのかもしれない。
- サン=テグジュペリ Saint-Exupéry R.M.アルベレス(著)中村三郎(訳)1998年改訂版
- においのカゴ 石井桃子創作集 大西香織(編集)
- 日本美術のことばと絵 玉蟲敏子(著)角川選書571
- 考える江戸の人々 自立する生き方をさぐる 柴田純(著)
- だまされ屋さん 星野智幸(著)
- 日本幼児史 子どもへのまなざし 柴田純(著)
- 雪の森のリサベット アストリッド・リンドグレーン(作)イロン・ヴィークランド(絵)石井登志子(訳)
- 子どもらしさ(執筆)畑中章宏(『図書』岩波書店定期購読誌2021年2月号/らしさについて考える③)
- ブリキの卵/この世は少し不思議 恩田陸(著)「タマゴマジック」所収・河北新報出版センター発行
- 分断を超えるハンセン病文学の言葉(執筆)木村哲也(『図書』岩波書店定期購読誌2021年2月号)
《参考》前号「女らしさ」の巻は、こちら