恩田陸さんて仙台出身だったんだ。本書を手にした動機は「河北新報」の名に反応しただけ。東日本大震災の一年後に縁あって仙台・石巻を何度となく訪問するはめになって、自然とこの新聞社の名が耳に馴染んでいたという極めて些細なきっかけなのだが、大震災から10年に垂んとしている今だから本に呼ばれた気がしている。
彼の地ではあのころ死者の霊にまつわる話をいっぱい聞いた。話すほうも聴くほうも怖いという感覚はなく、そういうことがあるんだね、と相づちを打ってばかりいた。その点、仙台市は殉難者が多いというわけではないが都市伝説的な要素が高いのだろうと察しが付く。短編連作小説「ブリキの卵」は18~19年も前の作だから大震災の影響はないはずなのだが、敢えて災害直後のエッセイ「この世は少し不思議」とセットで提示されると、俄然、大災害後の小説に変身できている。それもあらかじめセットされた定めだったとさえ見えるから不思議だ。
おりしも、この文を書いている今日、わたしは愛媛新聞紙上で土肥あき子さん紹介の一句に身震いする共振を感じてしまった。(作者は松本たかしさん)
解説を読んでしまえば大震災とも都市伝説とも無関係なのだが、読み手の精神状態なりタイミングによっては、大いに聯関しあってくる。だから読書はやめられない。
最近の読書10冊
- 映画にしなければならないもの(INTERVIEW)瀬々敬久・佐藤健・阿部寛/キネマ旬報2021年10月上旬号
- 小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌/回顧展公式カタログ兼書籍
- シンポジウム「明日に向けて、何をどう書いていくか」日本児童文学者協会2021公開研究会/案内リーフレット
- 「ぞうもかわいそう」再びー『かわいそうなぞう』の虚偽(筆)長谷川潮/『日本児童文学』2021年9・10月号特集「伝える」を問い直す
- レイシズムを考える(編)清原悠
- 咀嚼不能の石(筆)古矢旬/『図書』岩波書店定期購読誌2021年9月号巻頭
- 読書の敵たち(筆)大澤聡/『図書』岩波書店定期購読誌2021年9月号所収
- 宵の蒼(著)ロバート・オレン バトラー(訳)不二淑子/「短編画廊 絵から生まれた17の物語」所収 (ハーパーコリンズ・フィクション)
- 木村素衞――「表現愛」の美学 (再発見 日本の哲学)(著) 小田部胤久
- たまごのはなし(作・絵)しおたにまみこ