前号で「らしさ」シリーズの端緒を飾った「女らしさ」につづくのはやっぱり「男らしさ」だ。そこは読み通りだったが、予想通りの展開のあとの待っていたのは、ほんに今どきの「男らしさ」を問う素晴らしい提言としての一品だった。
そもそも男らしさの対義語は女々しいではないか、という提示は、ふむふむという感じで始まった。日本近代の男女観のモデルに選ばれたのは新渡戸稲造。男性は女性の保護者という感じ。それが現在平成令和にどう変わったかとして白羽の矢が当たったのは霊長類学者・人類学者の山極寿一さんだが、男は食物獲得に精出し、女性を守るという点で男らしさに変化は見られないという、ほんと今の日本の状況が浮き彫りに。しかし、そこで終わったら面白くも何ともない。著者の着眼が鋭い。題して「つわり」を覚える男たち。
妻の妊娠と同時に夫がつわり(悪阻)を体験する事例は、実は古く柳田国男の記録でも見られるもので、民俗学的には昔は十人に一人見られたとの記録もある。現代に於いて、イクメンが取り沙汰されるようになったが、つわりを覚える男達は今後「女らしい」男と言われるのか、「女々しい」男になるのか、それ以上に「男らしい」男と解釈されるのか、これは実に大きな転換期に差し掛かったとみてとれるのかもしれない。
- 春の宵(著)クォン・ヨソン(訳)橋本智保/韓国女性文学シリーズ4
- アジの味(著)クォン・ヨソン(訳)斎藤真理子(頭木弘樹編『絶望書店』所収)
- ゆるく考える(著)東浩紀 (河出文庫)
- 他所者の神戸(執筆)尾原宏之(『図書』岩波書店定期購読誌2021年6月号)
- 実力も運のうち 能力主義は正義か? マイケル・サンデル(著)鬼澤忍(訳)
- 「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ 長島有里枝(著)
- 未確認ハンバーグ弁当(作)日向理恵子/日本児童文学2021年5・6月号
- 雲と空のはざまで(執筆)大河原 愛(『図書』岩波書店定期購読誌2021年5月号/巻頭)
- お探し物は図書室まで 青山美智子(著)さくだゆうこ(羊毛フェルト)写真(小嶋淑子)装丁(須田杏菜)
- 三の隣は五号室 長嶋有(著)中公文庫
《参考》前号「女らしさ」の巻は、こちら