「言葉」と「ことば」を使い分けている著者のこころねが愛おしい。ろう者に対してつい「やさしいふり」をしてしまうわたしが居るのを実感させられるが、それ以上に、感動するんだなあ、エピソードのどれもこれも。聴者家族に生まれた聾者の著者が、聾家族に生まれた聾者の妻とのあいだに、聞こえる児が生まれ、その一日一日の物語は、想像を超えているとしかいいようがない。
かれらに寄せられるさまざまな善意の助言がまた、一層とかれらを悩ませている現実も重い。
最近、聞こえるこども(コーダ)が産まれたろう者の友達が言っていたことが、棘になってこころに引っかかっている。
「親と手話で話ができたからって、将来的には役に立たないでしょう。(中略)親子で会話ができることよりも、こどもが自分で生きていけるようにするべき」
そんな意見とはまったく逆のことを言う人もいた。(中略)どうすればいいのか、正直なところ、よくわからない。
つまるところは、こどもに対する愛情を感じているか、どう表現しているか、に帰結するきがする。聾者であるかどうか以前の問題として。そして、聞こえているわたしが一番学ばなければいけないのは、発語としての「言葉」だけが「ことば」じゃないって意識なのだ。
最近の読書10冊(予定を含む)
- 映画にしなければならないもの(INTERVIEW)瀬々敬久・佐藤健・阿部寛/キネマ旬報2021年10月上旬号
- 小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌/回顧展公式カタログ兼書籍
- シンポジウム「明日に向けて、何をどう書いていくか」日本児童文学者協会2021公開研究会/案内リーフレット
- 「ぞうもかわいそう」再びー『かわいそうなぞう』の虚偽(筆)長谷川潮/『日本児童文学』2021年9・10月号特集「伝える」を問い直す
- レイシズムを考える(編)清原悠
- 咀嚼不能の石(筆)古矢旬/『図書』岩波書店定期購読誌2021年9月号巻頭
- 読書の敵たち(筆)大澤聡/『図書』岩波書店定期購読誌2021年9月号所収
- 宵の蒼(著)ロバート・オレン バトラー(訳)不二淑子/「短編画廊 絵から生まれた17の物語」所収 (ハーパーコリンズ・フィクション)
- 木村素衞――「表現愛」の美学 (再発見 日本の哲学)(著) 小田部胤久
- たまごのはなし(作・絵)しおたにまみこ