幼児史研究分野で知った柴田純さんの本を読んでみたくなった。既存の歴史観に囚われずに、微かなヒントを年月掛けて深掘りしつづけるタイプの人。現代人なら当たり前すぎる「自分の頭で考える」生き方は日本史上ではそう古いことではない。神仏にすがって暮らすのが当たり前の時代から、自らの智解を駆使して困難を克服しようとする時代への変革。それを知識人や武家にかぎらず広く庶民の暮らしにまで焦点をあてた検証作業は読み応えあり。圧巻は中世仏教の本覚思想の盛衰と呼応させていたり、近世初頭の無名の儒者・那波活所の記録ノートにねむる思想を読み解いた先見性と根気だろう。著者はいやがるかもしれないが、わたしはかれの研究人生における奇遇の出遭いにこそ大いなる意味があると見える。
智解と信仰心の両立する未来こそ理想と思うのは今どき好かれないかもしれないが。
最近の読書10冊(予定を含む)
- 映画にしなければならないもの(INTERVIEW)瀬々敬久・佐藤健・阿部寛/キネマ旬報2021年10月上旬号
- 小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌/回顧展公式カタログ兼書籍
- シンポジウム「明日に向けて、何をどう書いていくか」日本児童文学者協会2021公開研究会/案内リーフレット
- 「ぞうもかわいそう」再びー『かわいそうなぞう』の虚偽(筆)長谷川潮/『日本児童文学』2021年9・10月号特集「伝える」を問い直す
- レイシズムを考える(編)清原悠
- 咀嚼不能の石(筆)古矢旬/『図書』岩波書店定期購読誌2021年9月号巻頭
- 読書の敵たち(筆)大澤聡/『図書』岩波書店定期購読誌2021年9月号所収
- 宵の蒼(著)ロバート・オレン バトラー(訳)不二淑子/「短編画廊 絵から生まれた17の物語」所収 (ハーパーコリンズ・フィクション)
- 木村素衞――「表現愛」の美学 (再発見 日本の哲学)(著) 小田部胤久
- たまごのはなし(作・絵)しおたにまみこ