広島原爆の日の新聞にノンフィクション作家・堀川惠子さんが熱く語っている。ほんとに熱い記事だ。
「明治以来、日本最大の補給・輸送基地だった宇品は米国の原爆投下に絶好の口実を与えた。(中略)新兵器を試したい米国には、どこでもよかったのかもしれない。そんな投下の口実や環境をつくった日本という国家の責任も極めて大きい」
広島の埋め立て地・宇品(うじな)港の心臓部だった船舶司令部。そこに生き「船舶の神」と称されながらも開戦直前に辞職した田尻昌次中将に光を当てたのは彼女が初。輸送に関して誰よりも当時の国情を知り尽くしていた田尻は、「国家運営が立ちゆかなくなる」と上層部に進言し、それがために辞職に追い込まれたのだ。宇品の部隊については、原爆投下直後の動きについても歴史に刻んでおかねばならない大事があった。そんなこんなの重要史料(とりわけ田尻氏手記)や証言(たとえば「田尻さんは、開戦には反対だったんじゃないかなあ」)に辿り着いた著者の執念に敬意を払いつつ、わたしはひとつの確信に似た思いを抱く。広島生まれの彼女の執念を結実させたのは、やはり広島で無念の死を遂げた数多の人びとの執念のほうではなかったかと。
最近の読書10冊(予定を含む)
- 映画にしなければならないもの(INTERVIEW)瀬々敬久・佐藤健・阿部寛/キネマ旬報2021年10月上旬号
- 小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌/回顧展公式カタログ兼書籍
- シンポジウム「明日に向けて、何をどう書いていくか」日本児童文学者協会2021公開研究会/案内リーフレット
- 「ぞうもかわいそう」再びー『かわいそうなぞう』の虚偽(筆)長谷川潮/『日本児童文学』2021年9・10月号特集「伝える」を問い直す
- レイシズムを考える(編)清原悠
- 咀嚼不能の石(筆)古矢旬/『図書』岩波書店定期購読誌2021年9月号巻頭
- 読書の敵たち(筆)大澤聡/『図書』岩波書店定期購読誌2021年9月号所収
- 宵の蒼(著)ロバート・オレン バトラー(訳)不二淑子/「短編画廊 絵から生まれた17の物語」所収 (ハーパーコリンズ・フィクション)
- 木村素衞――「表現愛」の美学 (再発見 日本の哲学)(著) 小田部胤久
- たまごのはなし(作・絵)しおたにまみこ