宇宙(コスモス)の詩人。星の王子さまの原作者サン・テグジュペリをそう称える本書は、かれの生涯と作品を丹念に追ったすえにリアルな作者像に辿り着いたのだ。本の帯にはサン・テグジュペリ論の先駆的記念碑とある。
没後60年に垂んとする現在も世界中で愛され続ける『星の王子さま』。作者は第二次世界大戦末期に偵察機操縦のまま消息を絶ち、若くして海の藻屑と化したゆえに、もしも生きてあればと惜しまれもし、わずかに書き残した作品群のなかに彼の意思を探ろうとする研究者が絶えないのだろう。すぐれた児童文学の宿命なのか、思想書というか倫理本・宗教本のように読まれることも少なからず、作品中のほんの一節が独り歩きしていく。
本書はさまざまなサン・テグジュペリ像を統合して立ち現れる偉大な詩人を敬愛しているのだ。並の詩人でないことを言いたくて、地質学的規模の詩人とも評している。
最も普遍的な思想家として、鉱物と有機物の対立、《大地》と《人間たち》の対立を自分の内部に包みこみ、モラリストとしては人間の友情に心うばわれ、また数学者的哲学者として、彼は驚くばかりに具象的な文体をつくりあげることができた。そしてこの文体をとおして明示される観念は、肉体化され、すでに奇蹟化されている。
彼の文体には、読書の跡が少しも認められない。彼は作家のなかで最も文学的でない作家である。
しかしながら、イマージュの豊かさにかけては、おそらく、最も大きな宝庫をかかえている作家だろう。
このことを伝えんとして延々と10作品の引用、事績との聯関照合が繰り広げられている(ので随分読み飛ばした)。で、わたしが思い至ったことは、逆説的に考えて「詩人とは何か?」を問うならこの書を読むのがベターなのではないだろうか。そして何はさておき、『星の王子さま』をこの歳で読み返してみたくなったのが一番の感想。
最近の読書10冊(予定を含む)
- 映画にしなければならないもの(INTERVIEW)瀬々敬久・佐藤健・阿部寛/キネマ旬報2021年10月上旬号
- 小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌/回顧展公式カタログ兼書籍
- シンポジウム「明日に向けて、何をどう書いていくか」日本児童文学者協会2021公開研究会/案内リーフレット
- 「ぞうもかわいそう」再びー『かわいそうなぞう』の虚偽(筆)長谷川潮/『日本児童文学』2021年9・10月号特集「伝える」を問い直す
- レイシズムを考える(編)清原悠
- 咀嚼不能の石(筆)古矢旬/『図書』岩波書店定期購読誌2021年9月号巻頭
- 読書の敵たち(筆)大澤聡/『図書』岩波書店定期購読誌2021年9月号所収
- 宵の蒼(著)ロバート・オレン バトラー(訳)不二淑子/「短編画廊 絵から生まれた17の物語」所収 (ハーパーコリンズ・フィクション)
- 木村素衞――「表現愛」の美学 (再発見 日本の哲学)(著) 小田部胤久
- たまごのはなし(作・絵)しおたにまみこ