広島原爆の日の新聞にノンフィクション作家・堀川惠子さんが熱く語っている。ほんとに熱い記事だ。
「明治以来、日本最大の補給・輸送基地だった宇品は米国の原爆投下に絶好の口実を与えた。(中略)新兵器を試したい米国には、どこでもよかったのかもしれない。そんな投下の口実や環境をつくった日本という国家の責任も極めて大きい」
広島の埋め立て地・宇品(うじな)港の心臓部だった船舶司令部。そこに生き「船舶の神」と称されながらも開戦直前に辞職した田尻昌次中将に光を当てたのは彼女が初。輸送に関して誰よりも当時の国情を知り尽くしていた田尻は、「国家運営が立ちゆかなくなる」と上層部に進言し、それがために辞職に追い込まれたのだ。宇品の部隊については、原爆投下直後の動きについても歴史に刻んでおかねばならない大事があった。そんなこんなの重要史料(とりわけ田尻氏手記)や証言(たとえば「田尻さんは、開戦には反対だったんじゃないかなあ」)に辿り着いた著者の執念に敬意を払いつつ、わたしはひとつの確信に似た思いを抱く。広島生まれの彼女の執念を結実させたのは、やはり広島で無念の死を遂げた数多の人びとの執念のほうではなかったかと。
最近の読書10冊(予定を含む)
- 「おばさん」がいっぱい(執筆)三辺律子(『図書』岩波書店定期購読誌2021年4月号/本をひらいた時)
- 七万人のアッシリア人 ウイリアム・サローヤン(著)斉藤数衛(訳)現代アメリカ作家集上巻所収1971年初版
- 季(とき)間中ケイ子(筆)ほか/日本児童文学2021年3・4月号 特集25年後の子どもたちへ
- カフカらしくないカフカ 明星聖子(著)
- 雪の練習生 多和田葉子(著)
- 物理の館物語(著者不明)/小川洋子『物理の館物語』参照(柴田元幸編『短篇集』所収)
- 『還れぬ家』『空にみずうみ』佐伯一麦(著)
- 十一年目の枇杷(執筆)佐伯一麦(『図書』岩波書店定期購読誌2021年3月号/巻頭)
- もっともらしさ(執筆)畑中章宏(『図書』岩波書店定期購読誌2021年3月号/らしさについて考える④)
- 【続】フランツ・ファノン『黒い皮膚・白い化面』小野正嗣(筆)NHK100分de名著