東日本大震災から10年という話題をかくも見事に終戦直後日本の復興と重ね合わせた文章は、初めて目にした。奇を衒うことなく、「枇杷」を機縁としたリアルな実感が伝わってくる。さすが多年の作家人生のなかでも宮城県人とし大震災を扱う作品を発表してこられた筆者の、年輪の深さがおのずから滲んでいる。
震災によって喪われたものが数多くあるなかで、震災後の歳月の中でしっかりと育ったものがある。
こんなふうに、大震災前年に植えた枇杷の種(今は若木)にことよせて、同郷の歌人佐藤佐太郎が敗戦後の東京で読んだ秀歌を紹介して結んでいる。
苦しみて生きつつをれば枇杷の花終りて冬の後半となる
佐藤佐太郎・詠
最近の読書10冊(予定を含む)
- 映画にしなければならないもの(INTERVIEW)瀬々敬久・佐藤健・阿部寛/キネマ旬報2021年10月上旬号
- 小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌/回顧展公式カタログ兼書籍
- シンポジウム「明日に向けて、何をどう書いていくか」日本児童文学者協会2021公開研究会/案内リーフレット
- 「ぞうもかわいそう」再びー『かわいそうなぞう』の虚偽(筆)長谷川潮/『日本児童文学』2021年9・10月号特集「伝える」を問い直す
- レイシズムを考える(編)清原悠
- 咀嚼不能の石(筆)古矢旬/『図書』岩波書店定期購読誌2021年9月号巻頭
- 読書の敵たち(筆)大澤聡/『図書』岩波書店定期購読誌2021年9月号所収
- 宵の蒼(著)ロバート・オレン バトラー(訳)不二淑子/「短編画廊 絵から生まれた17の物語」所収 (ハーパーコリンズ・フィクション)
- 木村素衞――「表現愛」の美学 (再発見 日本の哲学)(著) 小田部胤久
- たまごのはなし(作・絵)しおたにまみこ