
広島原爆の日の新聞にノンフィクション作家・堀川惠子さんが熱く語っている。ほんとに熱い記事だ。
「明治以来、日本最大の補給・輸送基地だった宇品は米国の原爆投下に絶好の口実を与えた。(中略)新兵器を試したい米国には、どこでもよかったのかもしれない。そんな投下の口実や環境をつくった日本という国家の責任も極めて大きい」
広島の埋め立て地・宇品(うじな)港の心臓部だった船舶司令部。そこに生き「船舶の神」と称されながらも開戦直前に辞職した田尻昌次中将に光を当てたのは彼女が初。輸送に関して誰よりも当時の国情を知り尽くしていた田尻は、「国家運営が立ちゆかなくなる」と上層部に進言し、それがために辞職に追い込まれたのだ。宇品の部隊については、原爆投下直後の動きについても歴史に刻んでおかねばならない大事があった。そんなこんなの重要史料(とりわけ田尻氏手記)や証言(たとえば「田尻さんは、開戦には反対だったんじゃないかなあ」)に辿り着いた著者の執念に敬意を払いつつ、わたしはひとつの確信に似た思いを抱く。広島生まれの彼女の執念を結実させたのは、やはり広島で無念の死を遂げた数多の人びとの執念のほうではなかったかと。
最近の読書10冊(予定を含む)
- 春の宵(著)クォン・ヨソン(訳)橋本智保/韓国女性文学シリーズ4
- アジの味(著)クォン・ヨソン(訳)斎藤真理子(頭木弘樹編『絶望書店』所収)
- ゆるく考える(著)東浩紀 (河出文庫)
- 他所者の神戸(執筆)尾原宏之(『図書』岩波書店定期購読誌2021年6月号)
- 実力も運のうち 能力主義は正義か? マイケル・サンデル(著)鬼澤忍(訳)
- 「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ 長島有里枝(著)
- 未確認ハンバーグ弁当(作)日向理恵子/日本児童文学2021年5・6月号
- 雲と空のはざまで(執筆)大河原 愛(『図書』岩波書店定期購読誌2021年5月号/巻頭)
- お探し物は図書室まで 青山美智子(著)さくだゆうこ(羊毛フェルト)写真(小嶋淑子)装丁(須田杏菜)
- 三の隣は五号室 長嶋有(著)中公文庫