広島原爆の日の新聞にノンフィクション作家・堀川惠子さんが熱く語っている。ほんとに熱い記事だ。
「明治以来、日本最大の補給・輸送基地だった宇品は米国の原爆投下に絶好の口実を与えた。(中略)新兵器を試したい米国には、どこでもよかったのかもしれない。そんな投下の口実や環境をつくった日本という国家の責任も極めて大きい」
広島の埋め立て地・宇品(うじな)港の心臓部だった船舶司令部。そこに生き「船舶の神」と称されながらも開戦直前に辞職した田尻昌次中将に光を当てたのは彼女が初。輸送に関して誰よりも当時の国情を知り尽くしていた田尻は、「国家運営が立ちゆかなくなる」と上層部に進言し、それがために辞職に追い込まれたのだ。宇品の部隊については、原爆投下直後の動きについても歴史に刻んでおかねばならない大事があった。そんなこんなの重要史料(とりわけ田尻氏手記)や証言(たとえば「田尻さんは、開戦には反対だったんじゃないかなあ」)に辿り着いた著者の執念に敬意を払いつつ、わたしはひとつの確信に似た思いを抱く。広島生まれの彼女の執念を結実させたのは、やはり広島で無念の死を遂げた数多の人びとの執念のほうではなかったかと。
最近の読書10冊(予定を含む)
- サニーちゃん、シリアへ行く 長有紀枝(文)葉祥明(絵)黒木英充(監修)
- 江戸の空見師 嵐太郎 佐和みずえ(著)
- その白さえ嘘だとしても 河野裕(著)階段島シリーズ第二作 新潮文庫書き下ろし
- indigo+ 赤崎チカ(著)Time is Art シリーズⅢ
- 古書店主とお客さんによる古本入門 漱石全集を買った日 山本善行×清水裕也(対談)
- 暮しの手帖1971年夏号
- 八年後のたけくらべ 領家髙子(著)
- キャパとゲルダ ROBERT CAPA & GERDA TARO ふたりの戦場カメラマン EYES OF THE WORLD マーク・アロンソン&マリナ・ブドーズ(著)原田勝(訳)
- ウルスリのすず SCHELLEN-URSLI ゼリーナ・ヘンツ(文)アロイス・カリジェ(絵)大塚勇三(訳)
- まことに残念ですが… ROTTEN・REJECTIONS 不朽の名作への「不採用通知」160選 アンドレ・バーナード(編著)木原武一(監修)中原裕子(訳)