幼児史研究分野で知った柴田純さんの本を読んでみたくなった。既存の歴史観に囚われずに、微かなヒントを年月掛けて深掘りしつづけるタイプの人。現代人なら当たり前すぎる「自分の頭で考える」生き方は日本史上ではそう古いことではない。神仏にすがって暮らすのが当たり前の時代から、自らの智解を駆使して困難を克服しようとする時代への変革。それを知識人や武家にかぎらず広く庶民の暮らしにまで焦点をあてた検証作業は読み応えあり。圧巻は中世仏教の本覚思想の盛衰と呼応させていたり、近世初頭の無名の儒者・那波活所の記録ノートにねむる思想を読み解いた先見性と根気だろう。著者はいやがるかもしれないが、わたしはかれの研究人生における奇遇の出遭いにこそ大いなる意味があると見える。
智解と信仰心の両立する未来こそ理想と思うのは今どき好かれないかもしれないが。
最近の読書10冊(予定を含む)
- サン=テグジュペリ Saint-Exupéry R.M.アルベレス(著)中村三郎(訳)1998年改訂版
- においのカゴ 石井桃子創作集 大西香織(編集)
- 日本美術のことばと絵 玉蟲敏子(著)角川選書571
- 考える江戸の人々 自立する生き方をさぐる 柴田純(著)
- だまされ屋さん 星野智幸(著)
- 日本幼児史 子どもへのまなざし 柴田純(著)
- 雪の森のリサベット アストリッド・リンドグレーン(作)イロン・ヴィークランド(絵)石井登志子(訳)
- 子どもらしさ(執筆)畑中章宏(『図書』岩波書店定期購読誌2021年2月号/らしさについて考える③)
- ブリキの卵/この世は少し不思議 恩田陸(著)「タマゴマジック」所収・河北新報出版センター発行
- 分断を超えるハンセン病文学の言葉(執筆)木村哲也(『図書』岩波書店定期購読誌2021年2月号)