幼児史研究分野で知った柴田純さんの本を読んでみたくなった。既存の歴史観に囚われずに、微かなヒントを年月掛けて深掘りしつづけるタイプの人。現代人なら当たり前すぎる「自分の頭で考える」生き方は日本史上ではそう古いことではない。神仏にすがって暮らすのが当たり前の時代から、自らの智解を駆使して困難を克服しようとする時代への変革。それを知識人や武家にかぎらず広く庶民の暮らしにまで焦点をあてた検証作業は読み応えあり。圧巻は中世仏教の本覚思想の盛衰と呼応させていたり、近世初頭の無名の儒者・那波活所の記録ノートにねむる思想を読み解いた先見性と根気だろう。著者はいやがるかもしれないが、わたしはかれの研究人生における奇遇の出遭いにこそ大いなる意味があると見える。
智解と信仰心の両立する未来こそ理想と思うのは今どき好かれないかもしれないが。
最近の読書10冊(予定を含む)
- お月さまってどんなあじ? ミヒャエル・グレイニェク(絵・文)いずみちほこ(訳)
- 案外、知らずに歌ってた童謡の謎 合田道人(著)
- 世界の名詩を読みかえす 飯吉光夫(訳・編集)葉祥明・唐仁原教久・東逸子・田渕俊夫(絵)
- 太秦ライムライト(映画パンフ)福本清三・山本千尋
- 白い土地 ルポ福島「福島帰還困難区域」とその周辺 三浦英之(著)
- 『Kaka Murad』 & 『Magic Box』
- ザ・ヘイト・ユー・ギヴ THE HATE U GIVE アンジー・トーマス(著)服部理佳(訳)
- 【読了】EREWHON エレホン サミュエル・バトラー(著)武藤浩史(訳)
- 桂浜水族館公認飼育員のトリセツ 桂浜水族館(監修)
- The Journal of Art Crime: Fall 2020 Noah Charney (著), Urška Charney (イラスト)