幼児史研究分野で知った柴田純さんの本を読んでみたくなった。既存の歴史観に囚われずに、微かなヒントを年月掛けて深掘りしつづけるタイプの人。現代人なら当たり前すぎる「自分の頭で考える」生き方は日本史上ではそう古いことではない。神仏にすがって暮らすのが当たり前の時代から、自らの智解を駆使して困難を克服しようとする時代への変革。それを知識人や武家にかぎらず広く庶民の暮らしにまで焦点をあてた検証作業は読み応えあり。圧巻は中世仏教の本覚思想の盛衰と呼応させていたり、近世初頭の無名の儒者・那波活所の記録ノートにねむる思想を読み解いた先見性と根気だろう。著者はいやがるかもしれないが、わたしはかれの研究人生における奇遇の出遭いにこそ大いなる意味があると見える。
智解と信仰心の両立する未来こそ理想と思うのは今どき好かれないかもしれないが。
最近の読書10冊(予定を含む)
- 春の宵(著)クォン・ヨソン(訳)橋本智保/韓国女性文学シリーズ4
- アジの味(著)クォン・ヨソン(訳)斎藤真理子(頭木弘樹編『絶望書店』所収)
- ゆるく考える(著)東浩紀 (河出文庫)
- 他所者の神戸(執筆)尾原宏之(『図書』岩波書店定期購読誌2021年6月号)
- 実力も運のうち 能力主義は正義か? マイケル・サンデル(著)鬼澤忍(訳)
- 「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ 長島有里枝(著)
- 未確認ハンバーグ弁当(作)日向理恵子/日本児童文学2021年5・6月号
- 雲と空のはざまで(執筆)大河原 愛(『図書』岩波書店定期購読誌2021年5月号/巻頭)
- お探し物は図書室まで 青山美智子(著)さくだゆうこ(羊毛フェルト)写真(小嶋淑子)装丁(須田杏菜)
- 三の隣は五号室 長嶋有(著)中公文庫