令和2年傑出の小説だ、わたしのなかで。女と男が交互にだす手紙14通だけの物語。この手の文通ストーリーは珍奇ではないが、差出人の2人をそれぞれベテラン作家が分身のように担当しての回想連作が、一から十まで(正確には十四まで)ずっと読者にとっての謎解きに仕立てられている。一通目で”私”は「まぶたをずっと閉じたままでいる」決心をしらせる。いきなり感はその後もハンパじゃない。しかも多様な(それでいて繋がりを含ませた)有名な文献たち(典型はアンネの日記)によって重厚深遠さを増している。ふたりの身に過去に何があったのか、最後の最後まで真相はふたりの記憶から少しずつしか吐露されない。読後、切ない思いが此の世に充満するばかり。。。命の尊厳やら一筋の涙の重さ、そんな陳腐な纏めで括りたくないものが一人ひとりの人生を彩っている。なんだか、ちょっと古い欧州の恋愛映画を字幕を追いつつ観たあとみたいな気分。(ひとに...わかるかなあ、わかんねえだろうなあ。)
- サン=テグジュペリ Saint-Exupéry R.M.アルベレス(著)中村三郎(訳)1998年改訂版
- においのカゴ 石井桃子創作集 大西香織(編集)
- 日本美術のことばと絵 玉蟲敏子(著)角川選書571
- 考える江戸の人々 自立する生き方をさぐる 柴田純(著)
- だまされ屋さん 星野智幸(著)
- 日本幼児史 子どもへのまなざし 柴田純(著)
- 雪の森のリサベット アストリッド・リンドグレーン(作)イロン・ヴィークランド(絵)石井登志子(訳)
- 子どもらしさ(執筆)畑中章宏(『図書』岩波書店定期購読誌2021年2月号/らしさについて考える③)
- ブリキの卵/この世は少し不思議 恩田陸(著)「タマゴマジック」所収・河北新報出版センター発行
- 分断を超えるハンセン病文学の言葉(執筆)木村哲也(『図書』岩波書店定期購読誌2021年2月号)