令和2年傑出の小説だ、わたしのなかで。女と男が交互にだす手紙14通だけの物語。この手の文通ストーリーは珍奇ではないが、差出人の2人をそれぞれベテラン作家が分身のように担当しての回想連作が、一から十まで(正確には十四まで)ずっと読者にとっての謎解きに仕立てられている。一通目で”私”は「まぶたをずっと閉じたままでいる」決心をしらせる。いきなり感はその後もハンパじゃない。しかも多様な(それでいて繋がりを含ませた)有名な文献たち(典型はアンネの日記)によって重厚深遠さを増している。ふたりの身に過去に何があったのか、最後の最後まで真相はふたりの記憶から少しずつしか吐露されない。読後、切ない思いが此の世に充満するばかり。。。命の尊厳やら一筋の涙の重さ、そんな陳腐な纏めで括りたくないものが一人ひとりの人生を彩っている。なんだか、ちょっと古い欧州の恋愛映画を字幕を追いつつ観たあとみたいな気分。(ひとに...わかるかなあ、わかんねえだろうなあ。)
- EREWHON エレホン サミュエル・バトラー(著)武藤浩史(訳)
- 失われた芸術作品の記憶 ノア・チャーニイ(著)服部理佳(訳)
- 問いかけるアイヌ・アート 池田忍(編)五十嵐聡美・貝澤 徹・小笠原小夜・吉原秀喜・高橋 桂・中川 裕・山崎明子・池田 忍(著)
- 撤退の時代だから、そこに齣を置く(執筆)赤坂憲雄(『図書』岩波書店定期購読誌2021年1月号/往復書簡「言葉をもみほぐす」最終話)
- 絵本の本 中村柾子著
- 藤井聡太 すでに棋士として完璧に近い(谷川浩司筆・文藝春秋2021新年特別号所収)
- 石たちの声がきこえる マーグリート・ルアーズ(作)ニザール・アリー・バドル(絵)前田君江(訳)
- 国旗のまちがいさがし 苅安望(監修)
- ひみつのビクビク フランチェスカ・サンナ(作)なかがわちひろ(訳)
- あしたはきっと デイヴ・エガーズ(文)レイン・スミス(絵)青山南(訳)