特ダネを追う新聞記者たちの半世紀をコンパクトに手玉にした短編集。スクープの華々しさとは裏腹に、そこに至る(あるいは至らない多くの)舞台裏の物語はどろどろとしているだけでなく、どうにも哀愁が漂う。社会の時々刻々の移り変わりの中で、とっておきの今を追いかけているように見えて、案外、虚空を掴もうとしている人が少なくない。嗚呼、これは毎日を必死に生きているつもりが、周りからすれば何やってるのという類いの、実はそちらが社会人の本流に見えて一層哀しくもある。それでも一瞬の煌めきを追うべき、と言いたいのかどうか、答はひとりひとりの人生のおしまいに決するとしかいえまい。
最近の読書10冊
- EREWHON エレホン サミュエル・バトラー(著)武藤浩史(訳)
- 失われた芸術作品の記憶 ノア・チャーニイ(著)服部理佳(訳)
- 問いかけるアイヌ・アート 池田忍(編)五十嵐聡美・貝澤 徹・小笠原小夜・吉原秀喜・高橋 桂・中川 裕・山崎明子・池田 忍(著)
- 撤退の時代だから、そこに齣を置く(執筆)赤坂憲雄(『図書』岩波書店定期購読誌2021年1月号/往復書簡「言葉をもみほぐす」最終話)
- 絵本の本 中村柾子著
- 藤井聡太 すでに棋士として完璧に近い(谷川浩司筆・文藝春秋2021新年特別号所収)
- 石たちの声がきこえる マーグリート・ルアーズ(作)ニザール・アリー・バドル(絵)前田君江(訳)
- 国旗のまちがいさがし 苅安望(監修)
- ひみつのビクビク フランチェスカ・サンナ(作)なかがわちひろ(訳)
- あしたはきっと デイヴ・エガーズ(文)レイン・スミス(絵)青山南(訳)