失われた芸術作品の記憶 ノア・チャーニイ(著)服部理佳(訳)

失われた藝術作品を集めた美術館があったら・・・そんな「はしがき」の言葉を反芻する大晦日というのは過去に思いを馳せるにピッタリすぎる。平和な日常なんてものは虚構でしかないことをコロナ禍の年で誰しも再認識したのだけれど、美術館に所蔵されたいる作品がいつ失われるかしれないなどと考えたことはなかった。されど、世界中の美術館の歴史を俯瞰すれば、火災、盗難、戦争、破壊行為によって藝術作品もまた無常きわまりないことが知れる。そう思うと、観るチャンスがあるなら観ておかなければ、との意欲が漲るのだ。

加えて、なるほど、と膝討ちしたのは、喪失以前に、はたして実在したのかと疑念を抱かせる作品もまた少ないこと。歴史に記述されていても、信用のおけるなんぴとも鑑賞した記録すら見当たらない、いわば神話的作品の存在。

(大晦日で何かとのんびり読破できていないのだけれど)気になって仕方ない箇所が一つ。1972年生まれの著者のプロフィール。美術史のほか建築史や犯罪史を学んだ末に、ローマを拠点に美術犯罪調査機構を設立し、なんと小説まで仕上げているのだ。その作品『名画消失』(早川書房)というから、ぜひ読んでみたい。