2019年5月に福島県南相馬市への転勤を命じられた著者は朝日新聞記者。実際に福島の帰還困難区域のすぐそばに居住しての現地取材。ようやく入居できたアパートでの異常な生活をはじめとして、現地の事故前・事故後の生々しい声がひしめいている。かつてアトム打線と称された双葉高校野球部OBや原子力最中(もなか)と命名された菓子の店主、浪江町に帰還した住民、。。。圧巻は浪江町長・馬場有(たもつ)さんの話と彼の最期の姿に著者が感じたもの。
「白い土地」とは地元での隠語だという。伸び放題の植物に呑み込まれたようになって放置されている乗用車や家々は、色合いから言えば緑一色ではあっても、緑の土地と呼べる場所ではなくなっている。これから1000年先、どうなっていくのか。エンディングで著者はこう書いている。
胸の線量計が「ピー」という不快な電子音をあげ、思考が現実へと引き戻される。液晶画面に映し出される忌々しいそれらの数値は、それを所持する人間に早急にその場から退去するよう命令している。
我々はその数字の累積によって管理され、同時に監視されている。
最近の読書10冊
- 映画にしなければならないもの(INTERVIEW)瀬々敬久・佐藤健・阿部寛/キネマ旬報2021年10月上旬号
- 小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌/回顧展公式カタログ兼書籍
- シンポジウム「明日に向けて、何をどう書いていくか」日本児童文学者協会2021公開研究会/案内リーフレット
- 「ぞうもかわいそう」再びー『かわいそうなぞう』の虚偽(筆)長谷川潮/『日本児童文学』2021年9・10月号特集「伝える」を問い直す
- レイシズムを考える(編)清原悠
- 咀嚼不能の石(筆)古矢旬/『図書』岩波書店定期購読誌2021年9月号巻頭
- 読書の敵たち(筆)大澤聡/『図書』岩波書店定期購読誌2021年9月号所収
- 宵の蒼(著)ロバート・オレン バトラー(訳)不二淑子/「短編画廊 絵から生まれた17の物語」所収 (ハーパーコリンズ・フィクション)
- 木村素衞――「表現愛」の美学 (再発見 日本の哲学)(著) 小田部胤久
- たまごのはなし(作・絵)しおたにまみこ