
エドワード・ホッパーの絵だから成り立つ企画にちがいない、と妙に確信してしまう。彼の画たちを題材にした短編小説アンソロジーのなかでも、とってもユニークな「ピエロが客として真ん中にいるレストラン」の絵がどんな物語に仕上がったのかわくわくしながら読む。ピエロはパントマイムさながら黙したまま、別の人間の視点ではじまる描写。画中の人物が生き生きとしている。もちろん、ピエロの役割は小さくなくて、遠い過去の物語までもが引き出されてくる、そんな宵の物語。ごちそうさまでした。
あとから知ったことだが、エドワード・ホッパーの作品がコロナ禍の米国で昨年注目されていたという。ピエロのいる絵はそうでもないが、他の多くは独り佇む構図で、コロナ禍の風景と重ねて賞翫されたらしい。そんなわけで急遽この企画が、というわけではあるまいが、時代が、彼の絵を欲しているということなのだろう。
最近の読書10冊(願望を含む)
- サン=テグジュペリ Saint-Exupéry R.M.アルベレス(著)中村三郎(訳)1998年改訂版
- においのカゴ 石井桃子創作集 大西香織(編集)
- 日本美術のことばと絵 玉蟲敏子(著)角川選書571
- 考える江戸の人々 自立する生き方をさぐる 柴田純(著)
- だまされ屋さん 星野智幸(著)
- 日本幼児史 子どもへのまなざし 柴田純(著)
- 雪の森のリサベット アストリッド・リンドグレーン(作)イロン・ヴィークランド(絵)石井登志子(訳)
- 子どもらしさ(執筆)畑中章宏(『図書』岩波書店定期購読誌2021年2月号/らしさについて考える③)
- ブリキの卵/この世は少し不思議 恩田陸(著)「タマゴマジック」所収・河北新報出版センター発行
- 分断を超えるハンセン病文学の言葉(執筆)木村哲也(『図書』岩波書店定期購読誌2021年2月号)