広島原爆の日の新聞にノンフィクション作家・堀川惠子さんが熱く語っている。ほんとに熱い記事だ。
「明治以来、日本最大の補給・輸送基地だった宇品は米国の原爆投下に絶好の口実を与えた。(中略)新兵器を試したい米国には、どこでもよかったのかもしれない。そんな投下の口実や環境をつくった日本という国家の責任も極めて大きい」
広島の埋め立て地・宇品(うじな)港の心臓部だった船舶司令部。そこに生き「船舶の神」と称されながらも開戦直前に辞職した田尻昌次中将に光を当てたのは彼女が初。輸送に関して誰よりも当時の国情を知り尽くしていた田尻は、「国家運営が立ちゆかなくなる」と上層部に進言し、それがために辞職に追い込まれたのだ。宇品の部隊については、原爆投下直後の動きについても歴史に刻んでおかねばならない大事があった。そんなこんなの重要史料(とりわけ田尻氏手記)や証言(たとえば「田尻さんは、開戦には反対だったんじゃないかなあ」)に辿り着いた著者の執念に敬意を払いつつ、わたしはひとつの確信に似た思いを抱く。広島生まれの彼女の執念を結実させたのは、やはり広島で無念の死を遂げた数多の人びとの執念のほうではなかったかと。
最近の読書10冊(予定を含む)
- 戦争は女の顔をしていない(著)スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ(訳)三浦みどり
- 徹底して戦争と死について書く(執筆)沼野充義(『図書』岩波書店定期購読誌2020年11月号巻頭)
- 夢の舟唄(德永民平詩集)
- わさびの日本史 (著)山根京子
- 国家への道順(著)柳美里
- 正義のゲーム理論的基礎(著)ケン・ビンモア(訳)栗林寛幸
- 社会契約論ーーホッブス、ヒューム、ルソー、ロールズ(ちくま新書)(著)重田園江
- 40代から始めよう! あぶら身をごっそり落とす きくち体操
- スケール 上──生命、都市、経済をめぐる普遍的法則(著)ジョフリー・ウェスト(訳)山形浩生・森本 正史
- 多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)