サローヤン氏のこの写真、この口髭ポーズは希有かも。今、なにゆえにW.サローヤンさんなのかといえば日本児童文学最新号で皿海達哉さんが彼の著の一節として「人類と呼んでいいのは赤ちゃんだけ」を紹介していたから。
ならば、どんな流れでそういう表現が生まれたかを確認したかったのだ、、、、が、それはそんなに難しい問題でもない。もともと絶滅したとされる国アルメニアの末裔であるサローヤンさんだから、少数民族に寄り添う思いが格別強かったのは自然の流れ。当時(邦訳が1971年)世界中に七万人しかいなかったアッシリア人に実際遭遇されたのだろう、人種のるつぼアメリカ合衆国で。興味深いのは、この短編作品に日系人が重要な役どころで登場すること。かれが生まれたカリフォルニアは日本人移民の起点だったから、かれの周囲にも少なからずいたのだろう。人類は皆兄弟と信じてその理念を弘めたかったかれの作品には、ひねくれたところや斜に構えた感じはなくて、唯々、あらゆる人種民族にたいする暖かなまなざしだけが充満している。
50年もまえの小品ながら、時代を超える普遍性とともに庶民のくらしのリアリティが今も通用するのは凄いことにちがいない。
最近の読書10冊(予定を含む)
- サン=テグジュペリ Saint-Exupéry R.M.アルベレス(著)中村三郎(訳)1998年改訂版
- においのカゴ 石井桃子創作集 大西香織(編集)
- 日本美術のことばと絵 玉蟲敏子(著)角川選書571
- 考える江戸の人々 自立する生き方をさぐる 柴田純(著)
- だまされ屋さん 星野智幸(著)
- 日本幼児史 子どもへのまなざし 柴田純(著)
- 雪の森のリサベット アストリッド・リンドグレーン(作)イロン・ヴィークランド(絵)石井登志子(訳)
- 子どもらしさ(執筆)畑中章宏(『図書』岩波書店定期購読誌2021年2月号/らしさについて考える③)
- ブリキの卵/この世は少し不思議 恩田陸(著)「タマゴマジック」所収・河北新報出版センター発行
- 分断を超えるハンセン病文学の言葉(執筆)木村哲也(『図書』岩波書店定期購読誌2021年2月号)