サローヤン氏のこの写真、この口髭ポーズは希有かも。今、なにゆえにW.サローヤンさんなのかといえば日本児童文学最新号で皿海達哉さんが彼の著の一節として「人類と呼んでいいのは赤ちゃんだけ」を紹介していたから。
ならば、どんな流れでそういう表現が生まれたかを確認したかったのだ、、、、が、それはそんなに難しい問題でもない。もともと絶滅したとされる国アルメニアの末裔であるサローヤンさんだから、少数民族に寄り添う思いが格別強かったのは自然の流れ。当時(邦訳が1971年)世界中に七万人しかいなかったアッシリア人に実際遭遇されたのだろう、人種のるつぼアメリカ合衆国で。興味深いのは、この短編作品に日系人が重要な役どころで登場すること。かれが生まれたカリフォルニアは日本人移民の起点だったから、かれの周囲にも少なからずいたのだろう。人類は皆兄弟と信じてその理念を弘めたかったかれの作品には、ひねくれたところや斜に構えた感じはなくて、唯々、あらゆる人種民族にたいする暖かなまなざしだけが充満している。
50年もまえの小品ながら、時代を超える普遍性とともに庶民のくらしのリアリティが今も通用するのは凄いことにちがいない。
最近の読書10冊(予定を含む)
- 「おばさん」がいっぱい(執筆)三辺律子(『図書』岩波書店定期購読誌2021年4月号/本をひらいた時)
- 七万人のアッシリア人 ウイリアム・サローヤン(著)斉藤数衛(訳)現代アメリカ作家集上巻所収1971年初版
- 季(とき)間中ケイ子(筆)ほか/日本児童文学2021年3・4月号 特集25年後の子どもたちへ
- カフカらしくないカフカ 明星聖子(著)
- 雪の練習生 多和田葉子(著)
- 物理の館物語(著者不明)/小川洋子『物理の館物語』参照(柴田元幸編『短篇集』所収)
- 『還れぬ家』『空にみずうみ』佐伯一麦(著)
- 十一年目の枇杷(執筆)佐伯一麦(『図書』岩波書店定期購読誌2021年3月号/巻頭)
- もっともらしさ(執筆)畑中章宏(『図書』岩波書店定期購読誌2021年3月号/らしさについて考える④)
- 【続】フランツ・ファノン『黒い皮膚・白い化面』小野正嗣(筆)NHK100分de名著