ミナマタ、ハンセン病、ハワイ移民、さらに、かつての植民地朝鮮の人や従軍慰安婦など、多くの場合、可哀想な人々、気の毒な人々で一括りにされてきた人の個々の声に耳を傾け、いまだに現存するさまざまな壁を打ち壊し、声を未来へ届けたいとねがう、1961年横浜生まれの作家・羌信子さんの一途な試みが詰まった一冊だ。とにかく、念いが重い。
あまりの痛みにただうずくまるばかりの命の記憶は、語りえぬまま心の底に降り積んで、やがて石になるのだろう。沈黙の石は問いを孕み、雨に打たれ、風に吹かれ、陽に照らされ、十年、百年、千年、語られるべき物語へといつか生まれ変わるのだろう。でも、時を超えて届けられたその物語を人間は受け取ることが出来るのだろうか、
装幀がさらに声を重く仕上げている。ブックカバーに見えるのは、狼か? 文中登場の信太の森の狐のイメージなのか? カバーを外した本体に見えるのは化石? ハンセン病俳人の村越化石さんの人と作品をイメージ? 謎はなぞのままに伝承すればいい、と思わずにはいられない。1000年先へと託す壮大さに比して、自分の卑小さを恥じるばかりだ。
- 映画にしなければならないもの(INTERVIEW)瀬々敬久・佐藤健・阿部寛/キネマ旬報2021年10月上旬号
- 小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌/回顧展公式カタログ兼書籍
- シンポジウム「明日に向けて、何をどう書いていくか」日本児童文学者協会2021公開研究会/案内リーフレット
- 「ぞうもかわいそう」再びー『かわいそうなぞう』の虚偽(筆)長谷川潮/『日本児童文学』2021年9・10月号特集「伝える」を問い直す
- レイシズムを考える(編)清原悠
- 咀嚼不能の石(筆)古矢旬/『図書』岩波書店定期購読誌2021年9月号巻頭
- 読書の敵たち(筆)大澤聡/『図書』岩波書店定期購読誌2021年9月号所収
- 宵の蒼(著)ロバート・オレン バトラー(訳)不二淑子/「短編画廊 絵から生まれた17の物語」所収 (ハーパーコリンズ・フィクション)
- 木村素衞――「表現愛」の美学 (再発見 日本の哲学)(著) 小田部胤久
- たまごのはなし(作・絵)しおたにまみこ