全国各地からアイヌに魅せられてきた造形作家ら8人の共著という大胆な企画に対してわたしは、アイヌという独特の文化の未来をどう開いたり変容させたりするんだろうという、やや懐疑的な興味を以て本書を開いた。でもそれは杞憂に違いないと思うに至ったのだ。小笠原小夜さんの言葉を借りようと思う。
以前、アイヌ文様が大胆にデザインされた、既製品と思われるワンピースの女性を見かけた。伝統的な文様を抜き取ったと思われるデザインだが、どこか違和感がある。よく見ると、民族衣装の背文様がまるごと正面にきていることに気づいた。しかし、そうしたものを目にした後には、どうにもできないモヤモヤだけが残る。アイヌ文様が広がると共に、アイヌ民族の存在も周知されるであろう期待と、違和感を持った時の不快感、そういったものに対峙した時のどうにもできないストレス。こういったことが日々繰り返されている。
第四章 イラスト表現の可能性
この文章に巡り会ってわたしは救われた思いがした。別にアイヌ文化に傾倒しているわけでもないのだが、一つの歴史ある文化をどう伝承するかを、別の民族が判断したり操作したりすることに抵抗感があるのだ。永い歴史のなかで、消滅した文化もあろう。変質した文化もあろう。でも、遺したり伝承したりすることに関しては出来ることなら当事者たちの思いこそ汲み取らなければ、そんな感覚を世界中の人びとと共有できる日の早からんことを希うばかりだ。
- サン=テグジュペリ Saint-Exupéry R.M.アルベレス(著)中村三郎(訳)1998年改訂版
- においのカゴ 石井桃子創作集 大西香織(編集)
- 日本美術のことばと絵 玉蟲敏子(著)角川選書571
- 考える江戸の人々 自立する生き方をさぐる 柴田純(著)
- だまされ屋さん 星野智幸(著)
- 日本幼児史 子どもへのまなざし 柴田純(著)
- 雪の森のリサベット アストリッド・リンドグレーン(作)イロン・ヴィークランド(絵)石井登志子(訳)
- 子どもらしさ(執筆)畑中章宏(『図書』岩波書店定期購読誌2021年2月号/らしさについて考える③)
- ブリキの卵/この世は少し不思議 恩田陸(著)「タマゴマジック」所収・河北新報出版センター発行
- 分断を超えるハンセン病文学の言葉(執筆)木村哲也(『図書』岩波書店定期購読誌2021年2月号)