全国各地からアイヌに魅せられてきた造形作家ら8人の共著という大胆な企画に対してわたしは、アイヌという独特の文化の未来をどう開いたり変容させたりするんだろうという、やや懐疑的な興味を以て本書を開いた。でもそれは杞憂に違いないと思うに至ったのだ。小笠原小夜さんの言葉を借りようと思う。
以前、アイヌ文様が大胆にデザインされた、既製品と思われるワンピースの女性を見かけた。伝統的な文様を抜き取ったと思われるデザインだが、どこか違和感がある。よく見ると、民族衣装の背文様がまるごと正面にきていることに気づいた。しかし、そうしたものを目にした後には、どうにもできないモヤモヤだけが残る。アイヌ文様が広がると共に、アイヌ民族の存在も周知されるであろう期待と、違和感を持った時の不快感、そういったものに対峙した時のどうにもできないストレス。こういったことが日々繰り返されている。
第四章 イラスト表現の可能性
この文章に巡り会ってわたしは救われた思いがした。別にアイヌ文化に傾倒しているわけでもないのだが、一つの歴史ある文化をどう伝承するかを、別の民族が判断したり操作したりすることに抵抗感があるのだ。永い歴史のなかで、消滅した文化もあろう。変質した文化もあろう。でも、遺したり伝承したりすることに関しては出来ることなら当事者たちの思いこそ汲み取らなければ、そんな感覚を世界中の人びとと共有できる日の早からんことを希うばかりだ。
- EREWHON エレホン サミュエル・バトラー(著)武藤浩史(訳)
- 失われた芸術作品の記憶 ノア・チャーニイ(著)服部理佳(訳)
- 問いかけるアイヌ・アート 池田忍(編)五十嵐聡美・貝澤 徹・小笠原小夜・吉原秀喜・高橋 桂・中川 裕・山崎明子・池田 忍(著)
- 撤退の時代だから、そこに齣を置く(執筆)赤坂憲雄(『図書』岩波書店定期購読誌2021年1月号/往復書簡「言葉をもみほぐす」最終話)
- 絵本の本 中村柾子著
- 藤井聡太 すでに棋士として完璧に近い(谷川浩司筆・文藝春秋2021新年特別号所収)
- 石たちの声がきこえる マーグリート・ルアーズ(作)ニザール・アリー・バドル(絵)前田君江(訳)
- 国旗のまちがいさがし 苅安望(監修)
- ひみつのビクビク フランチェスカ・サンナ(作)なかがわちひろ(訳)
- あしたはきっと デイヴ・エガーズ(文)レイン・スミス(絵)青山南(訳)