全国各地からアイヌに魅せられてきた造形作家ら8人の共著という大胆な企画に対してわたしは、アイヌという独特の文化の未来をどう開いたり変容させたりするんだろうという、やや懐疑的な興味を以て本書を開いた。でもそれは杞憂に違いないと思うに至ったのだ。小笠原小夜さんの言葉を借りようと思う。
以前、アイヌ文様が大胆にデザインされた、既製品と思われるワンピースの女性を見かけた。伝統的な文様を抜き取ったと思われるデザインだが、どこか違和感がある。よく見ると、民族衣装の背文様がまるごと正面にきていることに気づいた。しかし、そうしたものを目にした後には、どうにもできないモヤモヤだけが残る。アイヌ文様が広がると共に、アイヌ民族の存在も周知されるであろう期待と、違和感を持った時の不快感、そういったものに対峙した時のどうにもできないストレス。こういったことが日々繰り返されている。
第四章 イラスト表現の可能性
この文章に巡り会ってわたしは救われた思いがした。別にアイヌ文化に傾倒しているわけでもないのだが、一つの歴史ある文化をどう伝承するかを、別の民族が判断したり操作したりすることに抵抗感があるのだ。永い歴史のなかで、消滅した文化もあろう。変質した文化もあろう。でも、遺したり伝承したりすることに関しては出来ることなら当事者たちの思いこそ汲み取らなければ、そんな感覚を世界中の人びとと共有できる日の早からんことを希うばかりだ。
- 春の宵(著)クォン・ヨソン(訳)橋本智保/韓国女性文学シリーズ4
- アジの味(著)クォン・ヨソン(訳)斎藤真理子(頭木弘樹編『絶望書店』所収)
- ゆるく考える(著)東浩紀 (河出文庫)
- 他所者の神戸(執筆)尾原宏之(『図書』岩波書店定期購読誌2021年6月号)
- 実力も運のうち 能力主義は正義か? マイケル・サンデル(著)鬼澤忍(訳)
- 「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ 長島有里枝(著)
- 未確認ハンバーグ弁当(作)日向理恵子/日本児童文学2021年5・6月号
- 雲と空のはざまで(執筆)大河原 愛(『図書』岩波書店定期購読誌2021年5月号/巻頭)
- お探し物は図書室まで 青山美智子(著)さくだゆうこ(羊毛フェルト)写真(小嶋淑子)装丁(須田杏菜)
- 三の隣は五号室 長嶋有(著)中公文庫