東日本大震災から10年という話題をかくも見事に終戦直後日本の復興と重ね合わせた文章は、初めて目にした。奇を衒うことなく、「枇杷」を機縁としたリアルな実感が伝わってくる。さすが多年の作家人生のなかでも宮城県人とし大震災を扱う作品を発表してこられた筆者の、年輪の深さがおのずから滲んでいる。
震災によって喪われたものが数多くあるなかで、震災後の歳月の中でしっかりと育ったものがある。
こんなふうに、大震災前年に植えた枇杷の種(今は若木)にことよせて、同郷の歌人佐藤佐太郎が敗戦後の東京で読んだ秀歌を紹介して結んでいる。
苦しみて生きつつをれば枇杷の花終りて冬の後半となる
佐藤佐太郎・詠
最近の読書10冊(予定を含む)
- サン=テグジュペリ Saint-Exupéry R.M.アルベレス(著)中村三郎(訳)1998年改訂版
- においのカゴ 石井桃子創作集 大西香織(編集)
- 日本美術のことばと絵 玉蟲敏子(著)角川選書571
- 考える江戸の人々 自立する生き方をさぐる 柴田純(著)
- だまされ屋さん 星野智幸(著)
- 日本幼児史 子どもへのまなざし 柴田純(著)
- 雪の森のリサベット アストリッド・リンドグレーン(作)イロン・ヴィークランド(絵)石井登志子(訳)
- 子どもらしさ(執筆)畑中章宏(『図書』岩波書店定期購読誌2021年2月号/らしさについて考える③)
- ブリキの卵/この世は少し不思議 恩田陸(著)「タマゴマジック」所収・河北新報出版センター発行
- 分断を超えるハンセン病文学の言葉(執筆)木村哲也(『図書』岩波書店定期購読誌2021年2月号)