十一年目の枇杷(執筆)佐伯一麦(『図書』岩波書店定期購読誌2021年3月号/巻頭)

東日本大震災から10年という話題をかくも見事に終戦直後日本の復興と重ね合わせた文章は、初めて目にした。奇を衒うことなく、「枇杷」を機縁としたリアルな実感が伝わってくる。さすが多年の作家人生のなかでも宮城県人とし大震災を扱う作品を発表してこられた筆者の、年輪の深さがおのずから滲んでいる。

震災によって喪われたものが数多くあるなかで、震災後の歳月の中でしっかりと育ったものがある。

こんなふうに、大震災前年に植えた枇杷の種(今は若木)にことよせて、同郷の歌人佐藤佐太郎が敗戦後の東京で読んだ秀歌を紹介して結んでいる。

苦しみて生きつつをれば枇杷の花終りて冬の後半となる

佐藤佐太郎・詠

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