東日本大震災から10年という話題をかくも見事に終戦直後日本の復興と重ね合わせた文章は、初めて目にした。奇を衒うことなく、「枇杷」を機縁としたリアルな実感が伝わってくる。さすが多年の作家人生のなかでも宮城県人とし大震災を扱う作品を発表してこられた筆者の、年輪の深さがおのずから滲んでいる。
震災によって喪われたものが数多くあるなかで、震災後の歳月の中でしっかりと育ったものがある。
こんなふうに、大震災前年に植えた枇杷の種(今は若木)にことよせて、同郷の歌人佐藤佐太郎が敗戦後の東京で読んだ秀歌を紹介して結んでいる。
苦しみて生きつつをれば枇杷の花終りて冬の後半となる
佐藤佐太郎・詠
最近の読書10冊(予定を含む)
- 飛ぶ教室66号(2021年夏) 特集:あの物語とその周辺
- 読書からはじまる(著)長田弘/ちくま文庫
- 子どもの本のグレートランナーに聞く! 第1回 神宮輝夫/飛ぶ教室 第61号(2020年春)所収
- 日本の住宅(著)藤井厚二/藤井厚二建築著作集に収録
- コロナと無責任な人たち(著)適菜収/祥伝社新書
- 佐藤愛子の世界(文春ムック)
- 福島の甲状腺検査と過剰診断 子どもたちのために何ができるか(著)髙野徹・緑川早苗・大津留晶・菊池誠・児玉一八
- 【再掲】うたうかたつむり 野田沙織詩集
- 暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ(著)堀川惠子
- 橋本夢道物語―妻よおまえはなぜこんなに可愛いんだろうね(著)殿岡駿星