大規模な辞典の初版編纂事業と聞いて苦労を察する人は多いだろうが、改訂版もまた尋常でない労苦年月が捧げられたことに関心を寄せる人はどれほどあるだろう(過去のわたしを含めて)。著者の祖父・松井簡治の編纂した『大日本国語辞典』初版全20巻の改訂では、最大の眼目であろう一大事業「用例採集」の実態がこまかく回顧されていて、想像を絶する努力とそれを支えた使命感に胸が熱くなる思いだ。
実例を添えることの意味については、「なまあたらしい」という語を例にあげて紹介されている。
実はこの語について、二十年以上も前に、故見坊豪紀氏がそれまで採集した現代語の用例カード百二、三十万枚の中に一枚も見いだせないというところから、幽霊語かもしれないと話しているのである。
[p.130]
先輩見坊さんが見つけられなかった用例を探し出さなければ、初版全体の信用・価値にもかかわったのだ。結果としては、明治期に一例、大正二例、昭和一例が確認された。(ほう、めでたしめでたし、と読者はのんきに言ってしまうのであった。)
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