2010年発表のデビュー作(当時は20代か)。「工場」という名の巨大な異空間に何も知らずに就労して入り込んでしまった3人の目線それぞれで追う物語。わたしの地元でも「工場前」なんていうバス停があったりするので親近感を覚える。興味深いのは、だらだらとつづく改行無し(ではないけれどどこまで改行せずにいくのかと毎回おもわせるほど余白のすくない)文章のかたちがみごとに内容そのもののうんざりかんとマッチしていること。ある意味では古風な風刺っぽさを漂わせているのかと思いきや、むしろ気味悪さと、それをそうとも感じなくなっていく人間の哀れさを煮詰まらせていく、そんな感じ。(読後感として、さわやかさは皆無だ。)
唯一気になるのは、毎度のことだが、表紙絵のこと。装画については、Philippe Weisbecker 作品集『POBLE NOU』より、と説明がある。その画の下部に記された文字「CARRER DE JOAN MIRO」は人名のようだがPhilippe Weisbeckerとどう関係するのだろうか?
最近の読書10冊
- 「おばさん」がいっぱい(執筆)三辺律子(『図書』岩波書店定期購読誌2021年4月号/本をひらいた時)
- 七万人のアッシリア人 ウイリアム・サローヤン(著)斉藤数衛(訳)現代アメリカ作家集上巻所収1971年初版
- 季(とき)間中ケイ子(筆)ほか/日本児童文学2021年3・4月号 特集25年後の子どもたちへ
- カフカらしくないカフカ 明星聖子(著)
- 雪の練習生 多和田葉子(著)
- 物理の館物語(著者不明)/小川洋子『物理の館物語』参照(柴田元幸編『短篇集』所収)
- 『還れぬ家』『空にみずうみ』佐伯一麦(著)
- 十一年目の枇杷(執筆)佐伯一麦(『図書』岩波書店定期購読誌2021年3月号/巻頭)
- もっともらしさ(執筆)畑中章宏(『図書』岩波書店定期購読誌2021年3月号/らしさについて考える④)
- 【続】フランツ・ファノン『黒い皮膚・白い化面』小野正嗣(筆)NHK100分de名著