樋口一葉没後100年を期して発表された小説。ずっと気になりながらも、元のたけくらべに叶うわけないじゃん、と無視してきたのだが遂に読んで、そして、圧倒された。この人って樋口一葉の生まれ変わりか? というくらいに。
明治という激動の時代の片隅で、リアルなら誰も記憶しないような少年少女たちの純な心やりは哀しいながらも寄り添いたくなる。元の物語では10代でそれぞれが、やや特異な世界に別離してゆく。メインは出家する子と、遊女となる子。その余韻がどう変化し、どんな大人に成長したのか。明治の日清日露戦争の軍国主義という浅ましい大人の世相のなかで交差する青年たちの人生。なにもかもがすっかり世俗に毒され変わり果てたように見えて、うちに秘めた無垢な情愛だけは変わりない。それがまた一層儚さを感じさせるのだが、(ストーリー以上に)とにもかくにも文体に酔いしれてしまうよ。。。
これは余談だけれど、本書の冒頭にある一編「お力のにごりえ」を最初、信如くんと美登利ちゃんの物語のつもりで読んでいて、いつまでも登場しないから変だなと思ってたら、ほんと別の話だった。おんなじ時代の、似通った境遇の酌婦と幼なじみのこれまた哀しいおはなし。みんな不幸な話、とあっさり言ってしまうのは忍びない、時代の底辺に生きる人間たちのリアルが息づいている。
- サニーちゃん、シリアへ行く 長有紀枝(文)葉祥明(絵)黒木英充(監修)
- 江戸の空見師 嵐太郎 佐和みずえ(著)
- その白さえ嘘だとしても 河野裕(著)階段島シリーズ第二作 新潮文庫書き下ろし
- indigo+ 赤崎チカ(著)Time is Art シリーズⅢ
- 古書店主とお客さんによる古本入門 漱石全集を買った日 山本善行×清水裕也(対談)
- 暮しの手帖1971年夏号
- 八年後のたけくらべ 領家髙子(著)
- キャパとゲルダ ROBERT CAPA & GERDA TARO ふたりの戦場カメラマン EYES OF THE WORLD マーク・アロンソン&マリナ・ブドーズ(著)原田勝(訳)
- ウルスリのすず SCHELLEN-URSLI ゼリーナ・ヘンツ(文)アロイス・カリジェ(絵)大塚勇三(訳)
- まことに残念ですが… ROTTEN・REJECTIONS 不朽の名作への「不採用通知」160選 アンドレ・バーナード(編著)木原武一(監修)中原裕子(訳)