樋口一葉没後100年を期して発表された小説。ずっと気になりながらも、元のたけくらべに叶うわけないじゃん、と無視してきたのだが遂に読んで、そして、圧倒された。この人って樋口一葉の生まれ変わりか? というくらいに。
明治という激動の時代の片隅で、リアルなら誰も記憶しないような少年少女たちの純な心やりは哀しいながらも寄り添いたくなる。元の物語では10代でそれぞれが、やや特異な世界に別離してゆく。メインは出家する子と、遊女となる子。その余韻がどう変化し、どんな大人に成長したのか。明治の日清日露戦争の軍国主義という浅ましい大人の世相のなかで交差する青年たちの人生。なにもかもがすっかり世俗に毒され変わり果てたように見えて、うちに秘めた無垢な情愛だけは変わりない。それがまた一層儚さを感じさせるのだが、(ストーリー以上に)とにもかくにも文体に酔いしれてしまうよ。。。
これは余談だけれど、本書の冒頭にある一編「お力のにごりえ」を最初、信如くんと美登利ちゃんの物語のつもりで読んでいて、いつまでも登場しないから変だなと思ってたら、ほんと別の話だった。おんなじ時代の、似通った境遇の酌婦と幼なじみのこれまた哀しいおはなし。みんな不幸な話、とあっさり言ってしまうのは忍びない、時代の底辺に生きる人間たちのリアルが息づいている。
- 「おばさん」がいっぱい(執筆)三辺律子(『図書』岩波書店定期購読誌2021年4月号/本をひらいた時)
- 七万人のアッシリア人 ウイリアム・サローヤン(著)斉藤数衛(訳)現代アメリカ作家集上巻所収1971年初版
- 季(とき)間中ケイ子(筆)ほか/日本児童文学2021年3・4月号 特集25年後の子どもたちへ
- カフカらしくないカフカ 明星聖子(著)
- 雪の練習生 多和田葉子(著)
- 物理の館物語(著者不明)/小川洋子『物理の館物語』参照(柴田元幸編『短篇集』所収)
- 『還れぬ家』『空にみずうみ』佐伯一麦(著)
- 十一年目の枇杷(執筆)佐伯一麦(『図書』岩波書店定期購読誌2021年3月号/巻頭)
- もっともらしさ(執筆)畑中章宏(『図書』岩波書店定期購読誌2021年3月号/らしさについて考える④)
- 【続】フランツ・ファノン『黒い皮膚・白い化面』小野正嗣(筆)NHK100分de名著