全国各地からアイヌに魅せられてきた造形作家ら8人の共著という大胆な企画に対してわたしは、アイヌという独特の文化の未来をどう開いたり変容させたりするんだろうという、やや懐疑的な興味を以て本書を開いた。でもそれは杞憂に違いないと思うに至ったのだ。小笠原小夜さんの言葉を借りようと思う。
以前、アイヌ文様が大胆にデザインされた、既製品と思われるワンピースの女性を見かけた。伝統的な文様を抜き取ったと思われるデザインだが、どこか違和感がある。よく見ると、民族衣装の背文様がまるごと正面にきていることに気づいた。しかし、そうしたものを目にした後には、どうにもできないモヤモヤだけが残る。アイヌ文様が広がると共に、アイヌ民族の存在も周知されるであろう期待と、違和感を持った時の不快感、そういったものに対峙した時のどうにもできないストレス。こういったことが日々繰り返されている。
第四章 イラスト表現の可能性
この文章に巡り会ってわたしは救われた思いがした。別にアイヌ文化に傾倒しているわけでもないのだが、一つの歴史ある文化をどう伝承するかを、別の民族が判断したり操作したりすることに抵抗感があるのだ。永い歴史のなかで、消滅した文化もあろう。変質した文化もあろう。でも、遺したり伝承したりすることに関しては出来ることなら当事者たちの思いこそ汲み取らなければ、そんな感覚を世界中の人びとと共有できる日の早からんことを希うばかりだ。
- 戦争は女の顔をしていない(著)スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ(訳)三浦みどり
- 徹底して戦争と死について書く(執筆)沼野充義(『図書』岩波書店定期購読誌2020年11月号巻頭)
- 夢の舟唄(德永民平詩集)
- わさびの日本史 (著)山根京子
- 国家への道順(著)柳美里
- 正義のゲーム理論的基礎(著)ケン・ビンモア(訳)栗林寛幸
- 社会契約論ーーホッブス、ヒューム、ルソー、ロールズ(ちくま新書)(著)重田園江
- 40代から始めよう! あぶら身をごっそり落とす きくち体操
- スケール 上──生命、都市、経済をめぐる普遍的法則(著)ジョフリー・ウェスト(訳)山形浩生・森本 正史
- 多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)