全国各地からアイヌに魅せられてきた造形作家ら8人の共著という大胆な企画に対してわたしは、アイヌという独特の文化の未来をどう開いたり変容させたりするんだろうという、やや懐疑的な興味を以て本書を開いた。でもそれは杞憂に違いないと思うに至ったのだ。小笠原小夜さんの言葉を借りようと思う。
以前、アイヌ文様が大胆にデザインされた、既製品と思われるワンピースの女性を見かけた。伝統的な文様を抜き取ったと思われるデザインだが、どこか違和感がある。よく見ると、民族衣装の背文様がまるごと正面にきていることに気づいた。しかし、そうしたものを目にした後には、どうにもできないモヤモヤだけが残る。アイヌ文様が広がると共に、アイヌ民族の存在も周知されるであろう期待と、違和感を持った時の不快感、そういったものに対峙した時のどうにもできないストレス。こういったことが日々繰り返されている。
第四章 イラスト表現の可能性
この文章に巡り会ってわたしは救われた思いがした。別にアイヌ文化に傾倒しているわけでもないのだが、一つの歴史ある文化をどう伝承するかを、別の民族が判断したり操作したりすることに抵抗感があるのだ。永い歴史のなかで、消滅した文化もあろう。変質した文化もあろう。でも、遺したり伝承したりすることに関しては出来ることなら当事者たちの思いこそ汲み取らなければ、そんな感覚を世界中の人びとと共有できる日の早からんことを希うばかりだ。
- 迷子の魂(絵本)Olga Tokarczuk(作) Joanna Concejo(絵)
- 男らしさ(執筆)畑中章宏(『図書』岩波書店定期購読誌2020年12月号/らしさについて考える②)
- 杜甫の作った冷やし麺(執筆)興膳宏(『図書』岩波書店定期購読誌2020年12月号)
- 東洋堂古書目録 令和2年秋号
- しろいみつばち きくちちきの絵本(暮しの手帖Winter 2020-21 特別付録)
- 和歌史 なぜ千年を越えて続いたか(角川選書)
- おふろでちゃぷちゃぷ 松谷みよ子(文) 岩崎ちひろ(絵)
- 宮津昭彦集 自註現代俳句シリーズⅠ期16
- 永遠の緑 浅田次郎著 KEIBA CATALOG vol.18
- 英語発達小史(岩波文庫)H.ブラッドリ著 寺澤芳雄訳