食欲とまではいかないものの読書欲を喚起するタイトル。副題には「槐葉冷淘」の詩について、とある。さすが中国文学ご専門のお方だけあって、われわれ(少なくとも私)に目新しい杜甫の詩を紹介した上に、この詩のパロディ版『甘菊の冷淘』(北宋詩人王禹偁の作)まで比較詳説。詩形といいながらレシピになっていて、杜甫の製麺方法と見て取れる。捏ねて伸ばした麦粉のかたまりを包丁で細く切る「切麺」なりと。
ところが問題発生。宋代の関心は食欲に直結していたのか、別の詩人蘇軾の作には杜甫とおなじ槐葉冷淘を食したとあって形状について「餅」(へい;月餅の一種)と出ているという。つまり、本当は麺状なのか、餅状なのか、・・・。
ああさらに話題は同音異義語の迷宮へとつながっていて、見事なオチがついている。(ネタバレになるから書くまい。)
学生の頃に、こういうたのしい話題を軸に漢詩を学習していたら、もっと漢詩に精通するほどになったいたかも。単にわたし一人がどうのという事でなく、多くの日本人が悠久の漢詩文化、中国文化を楽しめていれば、日中関係は違う形もあり得るのに、と妄想ははてしなく肥大しそうだ。
- 「おばさん」がいっぱい(執筆)三辺律子(『図書』岩波書店定期購読誌2021年4月号/本をひらいた時)
- 七万人のアッシリア人 ウイリアム・サローヤン(著)斉藤数衛(訳)現代アメリカ作家集上巻所収1971年初版
- 季(とき)間中ケイ子(筆)ほか/日本児童文学2021年3・4月号 特集25年後の子どもたちへ
- カフカらしくないカフカ 明星聖子(著)
- 雪の練習生 多和田葉子(著)
- 物理の館物語(著者不明)/小川洋子『物理の館物語』参照(柴田元幸編『短篇集』所収)
- 『還れぬ家』『空にみずうみ』佐伯一麦(著)
- 十一年目の枇杷(執筆)佐伯一麦(『図書』岩波書店定期購読誌2021年3月号/巻頭)
- もっともらしさ(執筆)畑中章宏(『図書』岩波書店定期購読誌2021年3月号/らしさについて考える④)
- 【続】フランツ・ファノン『黒い皮膚・白い化面』小野正嗣(筆)NHK100分de名著