ミナマタ、ハンセン病、ハワイ移民、さらに、かつての植民地朝鮮の人や従軍慰安婦など、多くの場合、可哀想な人々、気の毒な人々で一括りにされてきた人の個々の声に耳を傾け、いまだに現存するさまざまな壁を打ち壊し、声を未来へ届けたいとねがう、1961年横浜生まれの作家・羌信子さんの一途な試みが詰まった一冊だ。とにかく、念いが重い。
あまりの痛みにただうずくまるばかりの命の記憶は、語りえぬまま心の底に降り積んで、やがて石になるのだろう。沈黙の石は問いを孕み、雨に打たれ、風に吹かれ、陽に照らされ、十年、百年、千年、語られるべき物語へといつか生まれ変わるのだろう。でも、時を超えて届けられたその物語を人間は受け取ることが出来るのだろうか、
装幀がさらに声を重く仕上げている。ブックカバーに見えるのは、狼か? 文中登場の信太の森の狐のイメージなのか? カバーを外した本体に見えるのは化石? ハンセン病俳人の村越化石さんの人と作品をイメージ? 謎はなぞのままに伝承すればいい、と思わずにはいられない。1000年先へと託す壮大さに比して、自分の卑小さを恥じるばかりだ。
- サン=テグジュペリ Saint-Exupéry R.M.アルベレス(著)中村三郎(訳)1998年改訂版
- においのカゴ 石井桃子創作集 大西香織(編集)
- 日本美術のことばと絵 玉蟲敏子(著)角川選書571
- 考える江戸の人々 自立する生き方をさぐる 柴田純(著)
- だまされ屋さん 星野智幸(著)
- 日本幼児史 子どもへのまなざし 柴田純(著)
- 雪の森のリサベット アストリッド・リンドグレーン(作)イロン・ヴィークランド(絵)石井登志子(訳)
- 子どもらしさ(執筆)畑中章宏(『図書』岩波書店定期購読誌2021年2月号/らしさについて考える③)
- ブリキの卵/この世は少し不思議 恩田陸(著)「タマゴマジック」所収・河北新報出版センター発行
- 分断を超えるハンセン病文学の言葉(執筆)木村哲也(『図書』岩波書店定期購読誌2021年2月号)