ミナマタ、ハンセン病、ハワイ移民、さらに、かつての植民地朝鮮の人や従軍慰安婦など、多くの場合、可哀想な人々、気の毒な人々で一括りにされてきた人の個々の声に耳を傾け、いまだに現存するさまざまな壁を打ち壊し、声を未来へ届けたいとねがう、1961年横浜生まれの作家・羌信子さんの一途な試みが詰まった一冊だ。とにかく、念いが重い。
あまりの痛みにただうずくまるばかりの命の記憶は、語りえぬまま心の底に降り積んで、やがて石になるのだろう。沈黙の石は問いを孕み、雨に打たれ、風に吹かれ、陽に照らされ、十年、百年、千年、語られるべき物語へといつか生まれ変わるのだろう。でも、時を超えて届けられたその物語を人間は受け取ることが出来るのだろうか、
装幀がさらに声を重く仕上げている。ブックカバーに見えるのは、狼か? 文中登場の信太の森の狐のイメージなのか? カバーを外した本体に見えるのは化石? ハンセン病俳人の村越化石さんの人と作品をイメージ? 謎はなぞのままに伝承すればいい、と思わずにはいられない。1000年先へと託す壮大さに比して、自分の卑小さを恥じるばかりだ。
- 春の宵(著)クォン・ヨソン(訳)橋本智保/韓国女性文学シリーズ4
- アジの味(著)クォン・ヨソン(訳)斎藤真理子(頭木弘樹編『絶望書店』所収)
- ゆるく考える(著)東浩紀 (河出文庫)
- 他所者の神戸(執筆)尾原宏之(『図書』岩波書店定期購読誌2021年6月号)
- 実力も運のうち 能力主義は正義か? マイケル・サンデル(著)鬼澤忍(訳)
- 「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ 長島有里枝(著)
- 未確認ハンバーグ弁当(作)日向理恵子/日本児童文学2021年5・6月号
- 雲と空のはざまで(執筆)大河原 愛(『図書』岩波書店定期購読誌2021年5月号/巻頭)
- お探し物は図書室まで 青山美智子(著)さくだゆうこ(羊毛フェルト)写真(小嶋淑子)装丁(須田杏菜)
- 三の隣は五号室 長嶋有(著)中公文庫