ミナマタ、ハンセン病、ハワイ移民、さらに、かつての植民地朝鮮の人や従軍慰安婦など、多くの場合、可哀想な人々、気の毒な人々で一括りにされてきた人の個々の声に耳を傾け、いまだに現存するさまざまな壁を打ち壊し、声を未来へ届けたいとねがう、1961年横浜生まれの作家・羌信子さんの一途な試みが詰まった一冊だ。とにかく、念いが重い。
あまりの痛みにただうずくまるばかりの命の記憶は、語りえぬまま心の底に降り積んで、やがて石になるのだろう。沈黙の石は問いを孕み、雨に打たれ、風に吹かれ、陽に照らされ、十年、百年、千年、語られるべき物語へといつか生まれ変わるのだろう。でも、時を超えて届けられたその物語を人間は受け取ることが出来るのだろうか、
装幀がさらに声を重く仕上げている。ブックカバーに見えるのは、狼か? 文中登場の信太の森の狐のイメージなのか? カバーを外した本体に見えるのは化石? ハンセン病俳人の村越化石さんの人と作品をイメージ? 謎はなぞのままに伝承すればいい、と思わずにはいられない。1000年先へと託す壮大さに比して、自分の卑小さを恥じるばかりだ。
- サニーちゃん、シリアへ行く 長有紀枝(文)葉祥明(絵)黒木英充(監修)
- 江戸の空見師 嵐太郎 佐和みずえ(著)
- その白さえ嘘だとしても 河野裕(著)階段島シリーズ第二作 新潮文庫書き下ろし
- indigo+ 赤崎チカ(著)Time is Art シリーズⅢ
- 古書店主とお客さんによる古本入門 漱石全集を買った日 山本善行×清水裕也(対談)
- 暮しの手帖1971年夏号
- 八年後のたけくらべ 領家髙子(著)
- キャパとゲルダ ROBERT CAPA & GERDA TARO ふたりの戦場カメラマン EYES OF THE WORLD マーク・アロンソン&マリナ・ブドーズ(著)原田勝(訳)
- ウルスリのすず SCHELLEN-URSLI ゼリーナ・ヘンツ(文)アロイス・カリジェ(絵)大塚勇三(訳)
- まことに残念ですが… ROTTEN・REJECTIONS 不朽の名作への「不採用通知」160選 アンドレ・バーナード(編著)木原武一(監修)中原裕子(訳)