この本のタイトルを”たのしい編集”としちゃったら愉しくない! 通常の表記で現しきれない標題があって良いし、その新規性こそ大切にしたいとわたしは切に思う。デジタル社会のデータベースに無理矢理押し込められてかわいそうだ。本の未来のために、データベースそのもののあり方を大変革してほしい。
と、愚痴はこれくらいにして。。。本書には本の編集に関する技術とともに、憎いくらいの演出(これも技術のうち)が詰まっている。わたしのお気に入りは2箇所。1つめはベテラン翻訳家・越前敏弥氏にきく編集者像のなかに。
和田 越前さんにとって記憶に残る編集者はいらっしゃいますか?
越前 僕が翻訳の道に入って四作ほど担当していただいたAさんは、忘れられませんね。かなり鍛えられました。とにかく原稿のチェック能力に長けた編集者でした。
和田 具体的には、どんなチェックが?
越前 たとえば<エレガント>に<瀟洒な>という訳語をあて、一冊の小説のなかで八回使ったことがあるんです。四回目くらいあたりから、「これ、四回目」「これ五回目」って指摘がありました(笑)。
(中略)ほかにも、<お願いね>と訳した箇所に、<ほんとにお願いね>と鉛筆が入っている。原文をみると、たしかにそこは、(中略)九九%、彼が正しいんです。
和田 指摘が細かいと、むっとしませんか?
越前 鉛筆はすべて質問形式になっていました。断言するのではなく、「どうでしょうか」とうかがう姿勢なんです。
こういう伝説の編集者について、本ではAさんとしか明かしていない。それがイイと思う。
もう1つのお気に入り箇所は、表紙写真と並べておいた、巻末の「本書の仕様」表記。製本様式、判型、そして本文・表紙・カバー・帯の紙材まで載せていること。編集に携わる人に向けた本としての自負を感じる。著者のおふたりが将来の、伝説の編集者B氏C氏になることを期待したい。
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