木村の言葉を借りるならば、「歴史に於いては一定不変の過去と云うものは存在し得ない」(「意志と行為」二一五頁)、ということである。芸術史の秩序はその都度完結している、すなわち芸術史とはまさにあるべき作品からなるが、そうであるために、「本当に新しい」作品が生まれるとき、この秩序は新たに作り直されなくてはならない。(中略)現在において新たに生じるものが過去を同時に再編成するのであるから、過去と現在は双方向に関係し合う。
第四章 国家ーー個人と人類を媒介するものとしての
著者小田部さんの作業もまた、木村素衛の哲学を再構築しているのだし、そのようにして哲学(に限らずあらゆる学問・思想など)は忘れ去られてしまわない限りに於いて、恒に「読まれる今」によって変質し続ける、つまりそれが生き続けるということなのだと念う。
正直「表現愛」はよくわからないが、小田部胤久さんが詠み込んだ木村素衛著作は、かつてついつい西洋から見て東洋的と既定されきたった日本の哲学を呪縛から解放することには成功しているような気がする、たぶん。
わたしも最近「読書」というものの意味を、こうした歴史認識と重ね合わせている。だから読書は、読んでいるその時々刻々が愉しい。
最近の読書10冊(願望を含む)
- 「おばさん」がいっぱい(執筆)三辺律子(『図書』岩波書店定期購読誌2021年4月号/本をひらいた時)
- 七万人のアッシリア人 ウイリアム・サローヤン(著)斉藤数衛(訳)現代アメリカ作家集上巻所収1971年初版
- 季(とき)間中ケイ子(筆)ほか/日本児童文学2021年3・4月号 特集25年後の子どもたちへ
- カフカらしくないカフカ 明星聖子(著)
- 雪の練習生 多和田葉子(著)
- 物理の館物語(著者不明)/小川洋子『物理の館物語』参照(柴田元幸編『短篇集』所収)
- 『還れぬ家』『空にみずうみ』佐伯一麦(著)
- 十一年目の枇杷(執筆)佐伯一麦(『図書』岩波書店定期購読誌2021年3月号/巻頭)
- もっともらしさ(執筆)畑中章宏(『図書』岩波書店定期購読誌2021年3月号/らしさについて考える④)
- 【続】フランツ・ファノン『黒い皮膚・白い化面』小野正嗣(筆)NHK100分de名著