ゆるく。それは生ぬるく聞こえるが、途轍もなく一途に、周辺にまとわりつく粘着思考を離れる考察態度を意味していた。外野の声を遮断して「考え続ける」価値を教えられた気がする。その意味では気易く「エッセイ集」と呼んでしまっては軽すぎるんじゃないかな。
2019年1月に発表された「悪と記念碑の問題」は著者の少年時代から連綿と続く関心事「政治や組織に力によって媒介され増幅される悪」について邪悪な歴史を伝える記念碑の意味とともに語る。記憶するために建てられる碑でありながら、建てて安心してさせてしまう忘却装置の役割も有するとの感想が開陳されて、ドキッとした。そこに政治的作為が見え隠れするなら尚更である。抽象化と数値化の暴力とも示される現実に、いままさにコロナ禍の政策報道を重ね見る。個々人の苦悩が見えなくされていく。日々の報道の洪水をまえにわたしは、「ゆるく」考えることを放棄してしまいそうになっている・・・・と教えて貰った。
最近の読書10冊(予定を含む)
- 生まれてこないほうが良かったのか? ――生命の哲学へ! (筑摩選書)森岡正博著
- 霊と肉 山折哲雄著
- ほんとさいこうの日 レイン・スミス作/青山南訳
- 寝てもとれない疲れをとる本(PHP文庫)中根一著
- いなくなれ、群青(新潮文庫)河野裕著
- 幸せになりたければねこと暮らしなさい 樺木宏(著)かばきみなこ(監修)
- あの日からの或る日の絵とことば 筒井大介編
- 女性史は可能か UNE HISTOIRE DES FEMMES EST-ELLE POSSIBLE? ミシェル・ペロー編 (邦訳初版)
- 日本語の連続/不連続 百年前の「かきことば」を読む (平凡社新書)今野真二著
- 目利きの本屋さんに聞いてみた(暮しの手帖Winter 2020-21)