予備知識なしに読んだ。何者? 強靱な心眼でヒトとの対話の表も裏も奥までも瞬時に読解反応して、押しつけがましくない思いやりに満ち満ちた言動を返せる人。相手が心閉ざしたおとなであろうと、無邪気にみえる幼児であろうと、姿勢は変わらない。そんな神仏さながらの優しさをもつ彼女は、自身が食べることも眠ることもできないほどの地獄の苦に沈んだ過去の傷跡さえも静かに観察して、心眼の深度を上げてきたようだ。
ひとの声に耳を傾けることを仕事にした沖縄在住の研究者であり、インタビュアーであり、幼子の母であり、今を生きる人間代表として、解決の見えない問題をおだやかな言葉にして紡いでいる。彼女のまえでは、沈黙もまた雄弁。
そうやって聞き取ったほとんどは、しばらくのあいだは書くことができないことだ。語られることのなかった記憶、動くことのない時間、言葉以前のうめき声や沈黙のなかで産まれた言葉は、受け止める側にも時間がいる。
逡巡と沈黙の時間をふたりでたどり、それから話はぽつんと終わる。そして最後は静かになる。
最近の読書10冊(予定を含む)
- 映画にしなければならないもの(INTERVIEW)瀬々敬久・佐藤健・阿部寛/キネマ旬報2021年10月上旬号
- 小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌/回顧展公式カタログ兼書籍
- シンポジウム「明日に向けて、何をどう書いていくか」日本児童文学者協会2021公開研究会/案内リーフレット
- 「ぞうもかわいそう」再びー『かわいそうなぞう』の虚偽(筆)長谷川潮/『日本児童文学』2021年9・10月号特集「伝える」を問い直す
- レイシズムを考える(編)清原悠
- 咀嚼不能の石(筆)古矢旬/『図書』岩波書店定期購読誌2021年9月号巻頭
- 読書の敵たち(筆)大澤聡/『図書』岩波書店定期購読誌2021年9月号所収
- 宵の蒼(著)ロバート・オレン バトラー(訳)不二淑子/「短編画廊 絵から生まれた17の物語」所収 (ハーパーコリンズ・フィクション)
- 木村素衞――「表現愛」の美学 (再発見 日本の哲学)(著) 小田部胤久
- たまごのはなし(作・絵)しおたにまみこ