
予備知識なしに読んだ。何者? 強靱な心眼でヒトとの対話の表も裏も奥までも瞬時に読解反応して、押しつけがましくない思いやりに満ち満ちた言動を返せる人。相手が心閉ざしたおとなであろうと、無邪気にみえる幼児であろうと、姿勢は変わらない。そんな神仏さながらの優しさをもつ彼女は、自身が食べることも眠ることもできないほどの地獄の苦に沈んだ過去の傷跡さえも静かに観察して、心眼の深度を上げてきたようだ。
ひとの声に耳を傾けることを仕事にした沖縄在住の研究者であり、インタビュアーであり、幼子の母であり、今を生きる人間代表として、解決の見えない問題をおだやかな言葉にして紡いでいる。彼女のまえでは、沈黙もまた雄弁。
そうやって聞き取ったほとんどは、しばらくのあいだは書くことができないことだ。語られることのなかった記憶、動くことのない時間、言葉以前のうめき声や沈黙のなかで産まれた言葉は、受け止める側にも時間がいる。
逡巡と沈黙の時間をふたりでたどり、それから話はぽつんと終わる。そして最後は静かになる。
最近の読書10冊(予定を含む)
- 飛ぶ教室66号(2021年夏) 特集:あの物語とその周辺
- 読書からはじまる(著)長田弘/ちくま文庫
- 子どもの本のグレートランナーに聞く! 第1回 神宮輝夫/飛ぶ教室 第61号(2020年春)所収
- 日本の住宅(著)藤井厚二/藤井厚二建築著作集に収録
- コロナと無責任な人たち(著)適菜収/祥伝社新書
- 佐藤愛子の世界(文春ムック)
- 福島の甲状腺検査と過剰診断 子どもたちのために何ができるか(著)髙野徹・緑川早苗・大津留晶・菊池誠・児玉一八
- 【再掲】うたうかたつむり 野田沙織詩集
- 暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ(著)堀川惠子
- 橋本夢道物語―妻よおまえはなぜこんなに可愛いんだろうね(著)殿岡駿星



