2010年発表のデビュー作(当時は20代か)。「工場」という名の巨大な異空間に何も知らずに就労して入り込んでしまった3人の目線それぞれで追う物語。わたしの地元でも「工場前」なんていうバス停があったりするので親近感を覚える。興味深いのは、だらだらとつづく改行無し(ではないけれどどこまで改行せずにいくのかと毎回おもわせるほど余白のすくない)文章のかたちがみごとに内容そのもののうんざりかんとマッチしていること。ある意味では古風な風刺っぽさを漂わせているのかと思いきや、むしろ気味悪さと、それをそうとも感じなくなっていく人間の哀れさを煮詰まらせていく、そんな感じ。(読後感として、さわやかさは皆無だ。)
唯一気になるのは、毎度のことだが、表紙絵のこと。装画については、Philippe Weisbecker 作品集『POBLE NOU』より、と説明がある。その画の下部に記された文字「CARRER DE JOAN MIRO」は人名のようだがPhilippe Weisbeckerとどう関係するのだろうか?
最近の読書10冊
- 映画にしなければならないもの(INTERVIEW)瀬々敬久・佐藤健・阿部寛/キネマ旬報2021年10月上旬号
- 小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌/回顧展公式カタログ兼書籍
- シンポジウム「明日に向けて、何をどう書いていくか」日本児童文学者協会2021公開研究会/案内リーフレット
- 「ぞうもかわいそう」再びー『かわいそうなぞう』の虚偽(筆)長谷川潮/『日本児童文学』2021年9・10月号特集「伝える」を問い直す
- レイシズムを考える(編)清原悠
- 咀嚼不能の石(筆)古矢旬/『図書』岩波書店定期購読誌2021年9月号巻頭
- 読書の敵たち(筆)大澤聡/『図書』岩波書店定期購読誌2021年9月号所収
- 宵の蒼(著)ロバート・オレン バトラー(訳)不二淑子/「短編画廊 絵から生まれた17の物語」所収 (ハーパーコリンズ・フィクション)
- 木村素衞――「表現愛」の美学 (再発見 日本の哲学)(著) 小田部胤久
- たまごのはなし(作・絵)しおたにまみこ