
知らなかった! あの絵本『かわいそうなぞう』(土家由岐雄作)の物語流布の真相を。昭和18年の上野動物園の猛獣27頭を殺処分した事件をそのまま子ども向けに記述してあるとばかり思っていた。
わたしが違うと感じたのは、空襲の実際の時期だった。土家の記述では、「まいにち、まいばん、ばくだんが あめのように ふりおとされて」きたのちに、猛獣処分が実施されたことになっており、これは空襲などないときに処分されたとする野坂の記述とは明らかに違っている。
野坂とあるのは野坂昭如さん。かれの『戦争童話集』に関する弁だ。この「違い」を丁寧に調べた筆者は野坂さんの作品が事実を述べていることに行き着く。つまり事実の順序を偽装した物語が学校の教科書というかたちを通して、教師から児童へと拡散されていったわけだ。戦争忌避の平和教育の名の下に、偽りの歴史を戦後の子らに刷り込み続けた・・・その真実を知らなかったから仕方ないという「大人の論理」は正当なのだろうか。
『日本児童文学』今号の特集は実に重い。しかし、決して目を背けること無く、大人はこどもに歴史と真実を伝えていかなければならない。わかりやすさを優先したら嘘をついて良いという論理は傲慢であって、「戦時中の大人たちの思考回路」が難解であろうとそれを正しく伝えるための叡智こそ探究せねばならなかったのではないか。推測の域をでないが、はたして童話作者個人の判断で生まれた虚偽の物語だったのだろうか。そして虚偽としりつつ当時の文部省官僚は学校教科書に載せたのだろうか。
本タイトルに「再び」とあるように、この事実は筆者がすでに1981年『季刊 児童文学批評』創刊号に発表された話らしい。その後、文科省はこの童話を教科書から削除したようだが、絵本としては現在も高く評価されて売れ続けている。わたしは現行の絵本のどこかに、補足説明として正しい史実が述べられているかどうかは未確認だが、ちかいうちに確認してみたいと念っているところだ。
最近の読書10冊(願望を含む)
- 「おばさん」がいっぱい(執筆)三辺律子(『図書』岩波書店定期購読誌2021年4月号/本をひらいた時)
- 七万人のアッシリア人 ウイリアム・サローヤン(著)斉藤数衛(訳)現代アメリカ作家集上巻所収1971年初版
- 季(とき)間中ケイ子(筆)ほか/日本児童文学2021年3・4月号 特集25年後の子どもたちへ
- カフカらしくないカフカ 明星聖子(著)
- 雪の練習生 多和田葉子(著)
- 物理の館物語(著者不明)/小川洋子『物理の館物語』参照(柴田元幸編『短篇集』所収)
- 『還れぬ家』『空にみずうみ』佐伯一麦(著)
- 十一年目の枇杷(執筆)佐伯一麦(『図書』岩波書店定期購読誌2021年3月号/巻頭)
- もっともらしさ(執筆)畑中章宏(『図書』岩波書店定期購読誌2021年3月号/らしさについて考える④)
- 【続】フランツ・ファノン『黒い皮膚・白い化面』小野正嗣(筆)NHK100分de名著