身体(からだ)と心(こころ)などという美しい二言論に馴らされている現代人の、みせかけの知性(凡智)に鉄槌をくだしてくれる怪著。著書は霊とか肉という語感について、こんな印象を語る。
思うに、「霊」という観念には手垢に汚れた胡散臭いイメージが立ちこめており、そして「肉」の語感にも、同様にあまりにも猥雑な性的匂いがつきまとっているからなのではないであろうか。
そして「霊」「肉」の本源に立ち帰ろうと導いてくれるのだ。その端的な一例として紹介されるものに、インドのヨーガがある。精気中枢として七種のチャクラが各種の神経などに対応しているといわれるものの、それにとどまらず、神秘的なエネルギーが潜在していると信じられ、それを活性化させることが重視されるのだ。これは仏法における断食修行中などに体験される霊夢や夢告とも通じる感覚世界と認識できそうだ。現実に、山折さんは当時インドのヨガ行者が自分の自律神経や中枢神経を自在に刺激する様子を科学的に研究している事例などにも言及している。(その一方で、怪しい見世物的な扱われ方のあることも示している。)いずれにせよ、この本が出た1979年当時はまだ、霊的な世界を身近に想像できる「自然」がヒトの周りに残っていたといえる気がする。
思うに、現在(令和2年)のコロナ禍の騒がしさを見渡して、(一部の患者、家族、医療関係者などを除いて)現代人の知性はうわべの数値報道だけを頼りに「霊」「肉」を実感するところから随分遠いところに来てしまっているように思えてならない。
話が飛躍するように見えるかもしれないことを承知で、もう少し書こう。死んだヒトがどこに居ると思うか、という感覚について我々(現代日本人)は、いにしえの人々とはもはや共有しえないところまで来たのではないか。クリスチャンでもないのに天国を想起する感覚は、リアリティのない夢想で妥協し誤魔化しているように、仏教徒たるわたしは強く思う。草葉の陰に居なくなった時代的境界はどの辺なのだろう。
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