スーパーマーケットの鮮魚売り場で、痛ましく見えてしまった鰊(にしん)の姿から生まれたという、わたしのお気に入りの詩一篇をまずはご紹介。
題・春告魚
そんなにも目を血走らせてまで
告げようとした春というのは
どんな春なのだろう
うろこを無残に剥がしてまで
ひっぱってこようとした
北の海というのは……
(中略)
腐りやすい
なま身を持っていることが
わたしとしても 何やらうとましい春だ
さしあたって誰に
ことしの春を
告げようというのではないが
* * * * *
新川和江さんの詩がどんなふうに生まれてきたか、55篇の作品個々に即して綴られている。回想による解説と思われるけれど、よくもまあ細かく記憶してるものだと感嘆したり。どこかに創作過程のメモがきちんとストックされているのなら、手の内こそ、それを覗き見したい気分になる。