小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌/回顧展公式カタログ兼書籍

圧巻は、表紙にもある『國の楯』のアップ写真の数々や解説。解説(植田彩芳子)によれば、この作品は天覧に供するために陸軍省の要請で描かれたと伝わるも、受け取り拒否をされ秘匿されたという。戦意高揚にふさわしくないとの判断だろうが、その影響が強く、かれの作品は永く歴史に埋もれていたのだろうか。興味深いのは、この作品には下絵もあり、また、当初の桜絵が黒く塗りつぶされた跡がはっきりと見て取れるというあたりだ。タイトルも変遷があった由で、作者自身が戦争画というものに対して心を種々に変化させていた証であろうし、解説者の言葉に強く共感もし、実物を見たい衝動にかられる。

この作品は、観者それぞれの文脈の中で、多様な解釈を可能とする。そのことも、この作品の魅力の一つといえるかもしれない。(中略)秋聲はこの作品を描くにあたり、二回ほど加筆をして一旦、一九四四年二月に完成させたとわかる。その際に、タイトルを変えたのであろう。戦後(中略)秋聲はさらに改作し、現在のようになった。

実物を見る代わりとして図録を入手したけれども、案の定、余計に実物を見たくなった。来年、鳥取での展覧会に行くとするかなあ。


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